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面白くもない話がだらだらと続いています・・・
付き合ってくれる人のみどうぞ・・・
”なりかけ”である事は分かっていた。
放置すると後々大変な事になる。
早急に対応するのが、ハンターとして最善の策だったのだ。
今もその考えは変わっていない。
家族の反応だって、想定の内だった。
ただ、想像内での批判と実際の批判では受ける衝撃が段違いだった。
------この、人殺し!
面と向かって言われた言葉は、予想以上の衝撃を持ってココの胸を突き刺した。
助けたはずの人間から言われた言葉に、憎悪の視線に、見えすぎるココは怯んだ。
それは一瞬。
死をもたらすにはその一瞬で十分だった。
目の前に広がる赤。
致死量に達すると分かるそれは、既に助ける事が不可能である事を物語っていた。
今でもあの時の自分は間違った事をしていないという自信はある。
だが、自分を人殺しと呼んだ者に怯んだ故に、転化する前に止めをさせず、結果助けられる命を助けられなかった。
あんな激しい憎悪の視線やオーラを向けられるのは、化け物に挑むよりも辛い。
自業自得と言う者もいた。
愛する夫に殺されれば本望だろうと言う者もいた。
だが、ココはそれを許せなかった。
モンスターの中でも人間を餌にし、姿形が人間と類似するが故に最も性質が悪く厄介だと言われる吸血鬼。
だが、オリジナルの吸血鬼はごくごく稀。
ハンターに狩られるのは、たいていは人間から転化した吸血鬼だ。
”なりたて”は周囲の状況を考えず浅はかな行動に出る為、事が明るみに出やすく、退治しやすい。
放置すればするほど知恵や力をつけ、厄介な存在となる。
早急に行動するのは、ハンターの鉄則と言えた。
だが”なる”と分かっているとは言え、”なる”前は確かにまだ人間というくくりに入っていたのだろう。
だからこそあのセリフ。
そしてココは思ってしまった。
ハンターの中でも最も名誉ある、最強の魔物ハンターとも呼ばれるヴァンパイアハンター。
だが、それが人間から転化した吸血鬼を殺す職業ならば、その実体はただの人殺しと何が違うのだろう、と。
彼女の言葉を心のどこかで認めてしまったが故の戸惑い。
ハンターである為には、冷徹に、冷静に物事を判断し、それを実行する事が必要だ。
直接手を下さないにしろ、助けられたはずの彼女を殺したのはココ自身の弱さだ。
心を鎧いきれなかった事を期に、ココはハンターである事を辞めた。
救えなかった人を、手に掛けてきた”なりかけ”を供養し、ただ静かに生きていく事だけを願った。
それなのに、赴任早々こんな事になるとは・・・
ハンターとしてのココはもういない。
だから、別に新しい家に引きこもって気付かないフリをしていたところで、誰に責められることもない。
でも助けを求める者がいた。
既にその声を聞いてしまった。
救いを求める者に手を差し伸べるのは神父としての務めでもある。
救える命があるかもしれない。
そう思うとやはり見捨てる事は出来なかった。
例えそれが殺さねばならぬ命だったとしても。
先ほどから助けを求める声が聞こえない。
焦りは禁物と思えど、焦燥感は拭えない。
ハンターを辞めてから、武器は持っていない。
だが敵がアレならば、ココの胸から下げた十字架は忌み嫌うものであるはずだ。
少量だが常に持ち歩いている聖水も使えるだろう。
今の自分が使えるもので敵を退ける算段を立てる。
捕獲する必要はない。
ただ、襲われているもの助けられれば良いのだ。
ザザザザザッ
獣のように素早く茂みをかき分け、ココは目的地にたどり着いた。
「そこかっ!?」
少し開けた場所。
そこに予想通りのモンスターがいた。
目深に被った暗い色合いの外套で、顔ははっきりしない。
いや、ハッキリしない分、口元より覗く牙が白く目立っていた。
牙が二つ、獲物の首筋にしっかりと食い込んでいる。
ココの姿を認めたとたん、外套をはためかせ黒い影が舞う。
咄嗟に身構えたが、予想に反し黒い影は後退。
森の中へと姿を消した。
どさっ
支えを失って吸血鬼の獲物であった筈の者が崩れ落ちる。
「キミっ!大丈夫か!?」
慌てて駆け寄るも、その顔は蒼白で、意識もそぞろだ。
「あ・・・ぁ・・・・」
小さく何か言おうとし、すぐに意識を失った。
警戒し、しばらく意識を集中していたが、吸血鬼が戻ってくる気配はなく。
厳しい表情のまま、ぐったりとした人間をココは抱えあげた。