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職場に毎年チョコをバラ巻くんですが。
今日ふらふらしてたら、ピエール/マルコ/リ/ーニのストラップがおまけで付いてくるバレンタインギフトの
セットがあって、思わず買ってしまいました。
当然、職場の人数分もそんな高級チョコを買える訳もなく、一つだけですが。
一応、一番お世話になっている上司にお渡しする予定です。
他のバラ巻き用との値段の差が・・・・
でもおまけが欲しかったんだもん!!(本音)
早速携帯につけましたvわぁいvv
赤いハートが可愛いんだぜ★
でも思ってた以上にチャチかったんだぜ。
この塗装、一か月持つのかな・・・?と思うくらい不安なんだぜ。
自覚ある事なんですが、”おまけ”とか”限定”とかに弱い・・・
買うつもりなかったものに手を出しちゃうことはしばしばです。
それより、後輩が買ってきたチョコのメーカーが自分の買ったのとまるかぶりで吹いた。
上司用に買ったメーカーも、ばら撒き用のメーカーも同じってどゆこと!?
毎日話してると、感覚も似てくるのかなぁ(笑)
「小松。俺の為にわざわざチョコなんて用意しなくて良いんだぜ?」
「そうそう。そういうイベントの時は逆に忙しいだろう?」
「仕事の邪魔するなんて美しくねーし!」
「あ。はい。わかりました」
最近のバレンタインは、女性から男性にってだけじゃなく、男性から渡す場合もあるとか、友チョコとか感謝チョコとか、恋人のみならず、親族同僚友人等、渡す相手を選ばないらしい。
普段お世話になっている事もあるし、世話チョコを渡すべきかどうしようかと迷っていた時のこの台詞。
気を使ってくれているのだとは分かったが、僕はありがたく三人の言葉に甘える事にした。
結局、仕事が忙しくなるのは本当のこと。
バレンタインは仕事のイベント事、という以外に自分には基本的に縁のない言葉だ。
残念ながらこの25年間、僕はチョコを上げた事はもちろん、貰った事も実は、ない。
アラサーが近いどこぞの学校の保険医の事をどうこう言えない立場だったのである。
それでも渡そうか、と悩む程には、普段からこの三人には感謝している。
だから、という訳ではないのだが。
仕事が終わり、終電ギリギリには間に合いそうだと慌てて戸締りを確認して駆け出せば、足は宙を駆けて前に進まない。
「ぅわーーーー!」
急な高低差に思わず叫び声をあげると、ぼふっと温かいものに背後を包まれた。
「よぉ、小松ー」
「くすくす・・・相変わらずだね小松くん」
「っせーし、松!」
「ああっ!トリコさん!ココさん!サニーさん!」
馴染みの3人に声をかけられ、叫んだ後に慌てて両手で口を覆った。
今が夜中だったのを思い出したのだ。
「あれだけ叫んでおいて今更だと思うけどね」
一言多いのはココさんの標準装備のようなものだ。
でも、間違った事を言われる訳じゃない。
「う・・・すみません・・・」
もごもごと僕は呟く。
「れより松!これ、俺からだし!」
「え?」
何かと思う暇もなく突き出されたそれを反射的に受け取ってしまった。
「あ、ずるいぞ、サニー!」
ココさんも慌てて手にしたものを差し出してくる。
「え、えと?」
勢いに押されてそれも受け取ってしまう。
暗いから目を凝らしてよく見てみると、綺麗にラッピングされたプレゼント。
「お二人とも、今日は僕の誕生日じゃないですよ?」
きょとん、としてお二人を見上げる。
「っげーし!馬鹿松!」
「今日は何の日だったか忘れたのかい、料理長?」
ええっと、今日はバレンタインで、恋人達のイベントで。
いつもホテルグルメを利用しないような若いカップルも奮発して予約してくれる日で。
その彼氏彼女に期待外れにならないよう、最大限の努力を・・・
「ってもしかしてこれ、チョコレートですかっ!?」
「鈍いな、小松」
カラカラとトリコさんが笑った。
「え?え?だって皆さん、チョコレートはいらないって・・・」
わざわざ言いに来たくらいだし、他の人から沢山貰ってるだろうし、僕、チョコレートの用意なんて今してないんですけど・・・!
「忙しい小松くんにわざわざ用意して貰おうとは思ってないとは言ったけど、僕らが上げないとは言ってないだろう?」
「そんな・・・僕なんかにわざわざ・・・・もったいないと言うかなんというか・・・」
「謙遜は美しくねーし!」
きぱっとサニーさんが言いきる。
「なんだ?嬉しくねーのか?」
トリコさんが首を傾げた。
僕は今一度手元にある二つのプレゼントを見下ろして。
そして、ぎゅっとそれを抱きしめた。
これが嬉しくない筈がない!
「嬉しいに決まってるじゃないですか!ありがとうございます!!」
満面の笑顔で応えた。
それに、同じく笑顔を返してもらえるのが嬉しい。
あ、いけない!あんまりギュッとしてたら、チョコが溶けちゃう!
もしかしたら繊細なものかもしれないし!
慌てて二つのプレゼントをそっと持ち直す。
「・・・ふふっ。実は僕チョコレートを貰ったの初めてなんで、本当に嬉しいですっ」
「えっ!?」
「マジで!?」
驚きに声をあげられるけど、普通のモテナイ一般男性にはよくある事だと思う・・・
特に僕の職場は男ばっかりだし、付き合ってる人なんかもいないし・・・・
バレンタイン前に試食はよくしているけど、これはそもそも”僕”に送られたものじゃない。
けどそんな事は、何もしていなくても押し付けてすらくる女性も多いだろう四天王であるお三方には青天の霹靂だったに違いない。
現にほら、皆さんが変な顔をして僕を見ている。
「小松・・・お前・・・」
可哀想な人を見るような眼で僕を見ないで下さいよ、トリコさん!
「松が初めて貰ったチョコは俺がやったチョコ・・・つくしい・・・」
うふうふ、とサニーさんが崩れた表情で美しくなく笑っていた。
「くっ・・・!サニーに先を越されるだなんて・・・!」
苦渋に満ちたように、秀麗な顔を強張らせているココさん。
・・・ん?
トリコさん以外は何か違うような・・・まぁ、良いか。
「良いんですっ!友チョコでも初めてのチョコは凄く嬉しいんですからっ!」
ツン、と頬を逸らした。
『友チョコ!?』
ココさんとサニーさんの声がハモる。
「え、あ・・・す、すみません・・・ちょっとおこがましかったです、かね・・・?」
でも、それ以外にお二人が僕にチョコをくれる理由が思いつかない。
普段ハントに連れて行ってもらったりして、僕がお世話になったり感謝したりする方だから。
感謝チョコでも、世話チョコでもなく、親兄弟でもなくて、男から男にチョコを渡す理由なんて、それしか思いつかなかった。
そして、そうだと思ったからこそ、お二人から自分が友達、と認めてもらえたような気がして嬉しかったのに。
どうやら違うらしいと思い至り、がっかりする。
い、いや、でも嫌いな相手にはチョコを贈らないと思うから、その好意だけは素直に受け取っておこう。
「ううん、おこがましいだなんて、そんな事ないよ。小松くんは僕にとって、大事な友達たから」
「ココっ!?」
「ほ、本当ですか、ココさんっ・・・!?」
ココさんの言葉を聞いて、僕はぱぁっと顔を輝かせる。
「っそっ・・・松が喜ぶなら、それで良いしっ・・・」
微妙に納得してないような表情だけど、サニーさんも認めてくれた。
嬉しい!嬉しい!
「ありがとうございます、ココさん!サニーさん!」
やっぱり僕もチョコを用意した方が良かったかなぁ、なんて今更ながらに思う。
もうすぐ日付も変わろうという時に思うなんて、遅すぎるけど・・・
「あっ!そう言えば、終電・・・!」
慌てて時計を確認すれば、日付は変わり、とっくに終電は終わっている時間だった。
そりゃ、そうだよなぁ・・・最初から走って帰れば間に合うかどうかだったのだから。
「終電?なんだ、電車に乗るつもりだったのか?」
「そうですよー。」
「どこかに行くつもりだったのかい?」
「行くっていうか、電車に乗らなきゃ家に帰れないじゃないですか」
電車に乗ればそうでもないが、職場と家の距離は地味に遠い。
歩くと一時間以上かかってしまう。
こうなったらホテルにある従業員仮眠室に泊まるか、タクシーで帰るしかない。
ぶーとふくれっ面をすると、サニーさんが面白そうにツンツン頬をつついてきた。
「鈍っ!前、激ニブっ!」
「もうっ放っといて下さいよぉ!」
悔しくてブンブン腕を振り回しても、サニーさんは器用に避けつつツンツン突くのを止めてくれない。
「つかもうすぐ前の家だし」
「・・・へ?」
ぱしっとようやくサニーさんの指を掴んだと思ったら、予想外な事を言われてしまった。
だってずっと立ち話してて何で家に・・・?
慌ててきょろきょろと辺りを見渡すと、確かに今いるのは自宅の最寄り駅近くで、見知った場所だった。
僕、ホテルを出てから一歩だって歩いてなんて・・・
「っに゛ゃーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「松、うるせっ」
サニーさんが顔を顰めて片手と髪で器用に自分の両耳を塞ぐ。
「近所迷惑だよ、小松くん」
両手が塞がっている僕の口を、ココさんが代わりに手で覆ってくれた。
だってだってだって!!!!
「ふぁっ、ふぁんふぇふぉくふぉりふぉふぁんふぃふっとふぁふぁえられふぇふんふぇふかーーーー!」(なっ、なんで僕トリコさんにずっと抱えられてるんですかーーー!)
「ぶはっ!何言ってるか全然分かんねー!」
「っっっ・・・く、くすぐったい・・・!」
トリコさんは笑って僕を降ろしてくれないし、ココさんは笑いを噛み殺しながらも手をどけてくれない。
「ふぉおおふぉうふぁらふぇをふぉけてふらふぁい!」(そう思うなら手をどけてください!)
サニーさんの指を離してココさんの手を引き剥がす。
「しぃー・・・静かに、ね?」
唇が触れあいそうなくらい顔を近づけて確認され、僕は顔を赤らめながらもコクコク頷いた。
「トリコさんもっ。もう降ろして下さいっ」
「おー」
ストン、とようやく固い地面に足をおろし、自分の足で歩きだす。
「もうっもうっ!」
ずっとトリコさんに抱えられて歩いていただなんて。
しかも抱えられて居た事に気付かなかっただなんて。
いくらチョコを貰って嬉しくて浮かれてたからとか、喋るのが楽しかったからとか、言い訳にもならない。
トリコさんがあまり振動を感じさせないよう気を使って歩いていてくれたんだとしても、いくらなんでもこれはない。
美食屋の足は速い。
僕なら一時間はかかる距離を二十分かそこらで歩いてきてしまった。
めまぐるしく変わっている筈の景色すら目に入らないくらい、三人しか目に入っていなかった。
いつもより近い視線の交わりにドキドキして、疑問に思う間もなかった。
「あんまりモーモー言ってると牛になんぞー」
のんびり歩きながらトリコさんが後ろから声をかけてくる。
「いーんですぅー。これからご飯食べてすぐ寝ちゃうんだから」
「さっきの松はほんと、面白かったし!」
「ほっといてください!!・・・・いや、お三方とも、責任とっていただきますからね!!」
くるりと振り返って、後から付いてきた三人に視線を向ける。
「・・・ん?責任?」
「そーです。僕の晩御飯に付き合ってもらいますから!」
「お安い御用だよ」
「チョコは用意してないんですけど、違うものは用意してあります」
皆既に甘いものでお腹いっぱいになっているかと思ったので、しょっぱいもの・・・というかバレンタイン用のディナーを作ろうと思って材料を買ってある。
仕事で忙しくなってしまうので、遅くなってしまうけど、明日の朝にグルメ急便で送ってもらうつもりだったのだ。
「おおっやりぃっ」
パチン、とトリコさんが指を鳴らした。
「松のメシなら腹減ってなくても食うし」
「でも今から作るとなると、大変だよ?」
主にトリコの分が、とココさんが横目でトリコさんを見た。
「僕は大丈夫です!皆さん、僕の家は狭いと思いますけど、今日は泊まっていって下さい。今夜は、寝かせないんですからねっ!日付が変わっても寝ちゃうまでは、バレンタインなんですからっ!」
ビシィ!と指をつきつけた。
明日は遅番だから、午後の3時に職場に行けば良い。
今から明け方まで食事タイムにして朝日と共に眠りについたって、六時間は眠れる計算だ。
そう思っていると、三人が三人とも、口元に手を当てて明後日の方を向いていた。
「ちょ、ちゃんと聞いてました!?」
挙動不審な三人に思わずツッコミを入れる。
『その台詞、違う時に聞きたかった・・・・!』
「・・・はぁ?」
よく分からないまま家に着けば、ドアを塞いでしまいそうなくらい大きな贈り物。
「俺のは持ち運べねーから先に送っといた」
とは、トリコさんの台詞。
それに心から感謝の言葉を述べて、僕は早速調理を開始した。
実を言えば、今お三方に作っているのは、今年のホテルグルメのバレンタイン用のディナーの不採用案だったりする。
一つ目はボリューム感溢れすぎていて、女性の胃には確実に重そうだったから却下したもの。
二つ目は、ベリーのソースやバジル等の香草をふんだんに使っていて、後で見返したらクリスマスカラーになってしまい、バレンタインらしい配色とは違ってしまい、却下したもの。
三つ目は、恋人達のイベントの筈が、美しさにこだわり過ぎた為、随分と主張が激しく二人を引き立たせる役目を果たせないと思い却下したもの。
実際にホテルで提供したのは、四つ目の案の、ちゃんと量や彩、配色や美しさの加減も考えたバランスの良いものを提供する事になった。
もちろん、最初の三つの案が、誰の事を考えながら作ったメニューだったのかは推して知るべし、だ。
一般的な事を考えると全て却下となってしまったものだが、これは僕が一人一人の事を考えて作った料理。
女性の胃には重すぎても、トリコさんの胃には全く負担にならない。
普通の人にはクリスマスカラーに見えても、僕にとっては、ココさんカラーで。
主張しすぎな凝り過ぎた美しさも、それ以上に美しいサニーさんになら、そんな料理だってちゃんと引き立て役を演じてくれる。
日付はもう15日だけれども、寝てしまうまでは14日という事にして。
美味しい、美味しいと食べてくれる三人と共に、遅い夕食とバレンタインというイベントを、僕はこの年になって初めて味わったのだった。
おしまい。