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歯医者さんの型どりが苦手です。
口の中に入れられた瞬間、オエッとなります。
固まるまでの間に5回くらいオエッとなります。
作ったマウスピースを入れても、小さくしない限りオエッとなります。
もう私、涙目。
あんな異物を口の中に入れて平気な人たちは凄いな!と尊敬すらします。
私、絶対入れ歯になんかならないんだからね!
以下はパロココマの続きです。
買い物袋を手に宿屋を訪れる。
そこでココは小松が宿屋で働く意味を理解した。
ずっと不思議だったのだ。
旅人すら滅多に通らない村に、宿泊施設などで働き口などあるのだろうか、と。
主人が余程の老齢か身体が不自由なのかと思っていたのだが。
宿屋の看板以上に目立つ、食事処のマーク。
宿泊した者には食事が必要だ。
大抵の宿屋は一階に酒や簡単な食事を振る舞える処がある。
だがむしろこの村では宿泊施設よりこちらの方がメインなのだろう。
あのような料理が出るのだ。
旅人に限らず村人も来るに違いない。
今はまだ早い時間帯で営業しているのかどうか分からなかったが、ノックをすれば返事があった。
「こんにちは。失礼します」
「あら!あらあらあらあらまぁまぁまぁ!司祭さまじゃありませんか!」
頬を赤らめいそいそと近づいてきたのはエプロンをつけた、おそらく女将さんだ。
「お召し上がりですか?まだ営業時間まで間があるけれど、司祭さまなら…」
「いいえ。申し訳ないですが、それはまたの機会にさせていただきましょう」
こういう手合いは放っておくといつまでも喋り続ける。
キッパリと断ってこちらの要件を告げた。
「ご主人はいらっしゃいますか?小松くんの事で少しお願いがありまして…」
「まぁ!わざわざ…」
「小松が世話になってます」
夫人が答える前に返答がきた。
奥の勝手口らしき場所から薪を担いでのそりと入ってくる。
髭の濃い、かなり体格に恵まれた人物だった。
眼光も鋭く、紹介されなければとても一介の宿屋の主人には見えないだろう。
小松とは似ても似つかない。
まぁ血の繋がりはないので当然ではあるのだが。
小松が世話になっていますと殊勝な挨拶をしながら、値踏みするようにココを見据えている。
外見や噂に惑わされないぞと言わんばかりの様子に、逆にココは信用出来ると踏んだ。
相手にもそう思われていると良いのだが。
「小松くんが大事にしていたご両親の形見を預かりにきました」
そう切り出せば、すぐ分かったようだ。
主人が顎をしゃくると夫人が奥に消える。
「それで、どうなんだ」
小松の事を聞いているのだとはすぐ分かった。
「村長は何とおっしゃいましたか?」
結論だけ言えば元気なのだが、どうしても返答は慎重になってしまう。
「…まだしばらくはそっとしておけ、と…」
むすっとした表情でそれだけ告げる。
村長からの指示で見舞いに行くのも止められているらしい。
主人が不本意なのは明らかだ。
感染症ではないと言っておいたのに・・・とココは臍をかんだ。
村長からすれば、蔓延してからでは遅い、との安全策なのだろう。
ココの言葉を信用していない。
万一感染症だったとして、ココと小松を隔離すれば済む。
むしろ教会は村人の家から離れているので好都合だ。
小松は元々一人ものだし、司祭はまた新しく派遣を要請すれば良いくらいに思っているのかもしれない。
そして悔しい事に、村長の行動はある意味間違いではないのだ。
反論は出来ない。
ココが居れば問題ないと言いたいが、まだココは新参者。
信用どころか下手をすれば疑いを持たれかねない危うい存在でもある。
村をまとめる者として、警戒する事も必要なのだ。
対して宿屋の主人からは純粋に小松を心配している様子が伝わってくる。
前任の司祭の紹介だと言うからあまり疑ってはいなかったが、悪い人間ではないようで安心する。
愛想はないが、むしろ小松を見て態度を変えた村長より信用できるくらいだ。
いや、この主人も斑点の浮き上がった小松を見れば態度を変えるのだろうか?
そう考えると少し哀しい。
「そうですか・・・ですが昨日村長がいらっしゃった時よりは落ち着きました。形見の事を言い出したのも小松くん自身です。ただ顔色はまだ悪いので今しばらくは様子を見ていきたいと思います。村長のご了承もいただいてます」
初対面の人間に形見を預かると言われてもそう納得出来るものでもないだろうが、小松自身の望みであり、死に面している状況でもないという事を伝える。
直接来て貰っても良いかもしれないが、見舞いは村長の警告を受けているから無理だろう。
「もし僕が信用に足りないのであれば、小松くんに言って手紙を書いてもらいます」
誠意を持って告げれば、主人も少し安心したようだ。
ゆっくりと首を横に振ってから、奥に声をかけた。
「おい」
話が終わるまで奥で控えていたのかもしれない。
夫人が布の塊を持ってきた。
「こちら…ですか?」
テーブルに置かれたものを見つめる。
お世辞にも綺麗な布とは言えない。
両親の写真等を想像していたので、意外だった。
だがどれだと迷うでもなく持ってきたので、間違いはないのだろう。
主人は布の包みを開いた。
「これは…」
ココは現れた物を見て思わず息を呑んだ。
濡れたような霞み仕上げの二振りの包丁と砥石。
「業物ですか…?」
名のある刀工の作だろうか。
親の形見だと言うのなら、親は鍛冶師だったのか。
村にはもう一家鍛冶師がいるようなので、元々この村には鍛冶師が二人いたのかもしれない。
己の手脂で汚すのも躊躇われ、ただ食い入るように見つめる。
だが帰ってきた答えはそっけないものだった。
「さぁな。少なくとも俺は聞いたこともない」
「そうですか」
ココもそれ以上聞こうとは思わない。
正直もう亡くなってしまった鍛冶師の名より、この包丁を使用した小松の料理を食べてみたい。
ココが食べた以上に更に美味しくなるかもしれないと思えば自然と口内に唾液が溜まる。
溢れそうになるそれを飲み込むのにココは苦労した。
「…お預かりしても?」
「あぁ。小松に早く顔を出しに来いと伝えてくれ」
主人は再び布で包むと、ココの方へ押し出した。
一応、信用されたらしいと判断する。
おそらくあれを見て目の色を変えるようでは預けてはもらえなかっただろう。
実際、名がなくとも売り飛ばせばかなりの値段になりそうだ。
「はい・・・必ず」
ココは謹んで小松の両親の形見を受け取った。
「今度はお食事にいらっしゃって下さいな」
小松がいればそれも良いかもしれない、と自分が外食して周りに与える影響など考えもせずそう思うとココは宿屋を後にした。
「司祭さま!買い物袋をお忘れですよ!」
「えっ?!あ、すみません」
「うっかりなんですのね」
夫人は朗らかに笑ったが、包丁に気を取られすぎて買い求めたものを忘れるなど今までにない失態をして、恥ずかしく思うココだった。
「ただいま」
まだ洗い物をしているのかとキッチンへ行けば、何やらキッチン周りの大掃除になっているらしい小松に声をかける。
「お帰りなさい、ココさん」
竈から出てきた小松は煤に汚れて真っ黒になっていた。
別れた時のギスギスした雰囲気はどこへ行ったのか。
「わぁ!沢山買いましたね!」
ココの大荷物を見て声を上げる。
小松が頼んだ分より明らかに多い。
むしろ他の買い物の方が多かったようだ。
「小松くんに言われたものしか買ってないんだけどね。新しい司祭がもの珍しいんだろう。皆気前良くサービスしてくれたよ」
そんな珍獣のような表現をしなくても良いんじゃないかと思うが、ココにとってはそんな気分なのだろう。
いくら好意からとは言え、過ぎた好意は煩わしいだけだ。
小松なら明らかにふらつきそうな量の荷物をドサリと下ろす。
「今日の晩どころか二三日は買い物に行かなくても良さそうですね…」
荷物を袋から出せば、さまざまな食材が顔を出す。
ちらりとココの視線がテーブルの上のグラスに注がれたが、小松は気付かないふりをした。
キッチンの掃除の間も、わざと片付けず手もつけずに置いてあるのが無言の意思表示だ。
だがココも今は言及するつもりはないようだった。
ココがどれだけの猶予を小松に与えてくれるのかは分からない。
だが、ココがどれほど時間をくれようと、小松の答えはもう決まっていた。
決まっているからこそふっきれた態度も取れるのだが、ココの方も普通に話しかけてくれる理由までは小松には分からない。
「それより小松くん、後は僕が引き受けるからお風呂に入ってくると良い。鼻の頭も真っ黒だよ」
ココの指が伸びて小松の鼻を掠める。
見せられた指の腹は煤で真っ黒に染まっていた。
よく見れば服もかなり煤けている。
「すみません、お言葉に甘えます」
風呂に入ろうと小松はざっと手を洗った。
「あ、その前にこれ」
すれ違う時に布の包みを手渡す。
「わぁっ荷物も重かったでしょうに寄って下さったんですね!ありがとうございます」
「宿屋のご主人が、元気になったら早く顔を出せって言ってたよ」
「・・・そう、ですか・・・・」
切なそうに目を閉じる。
小松には分かっているのだろう。
もう二度とそこに戻る事は出来ないのだと。
小松の覚悟を感じ、ココは目を見開いた。
実際、今の言葉でそこまで追い詰めるつもりはなかったのだ。
むしろ本当に心配していた様子の主人を安心させてやりたい気持ちの方が強い。
「良くなったら、一緒に挨拶に行こうね」
ぽろりと口をついた一言に、小松が泣きそうな顔をした。
良くなったら。
それは何を基準に言うのだろうか。
実際小松は今現在一人で立って、普通に動いている。
病気とは言えないだろう。
吸血鬼になったものが人間に戻るなど聞いたこともない。
人間に戻れるとすれば、それは。
「・・・・はい」
冷たい屍になった自分と再会する主人は、泣いてくれるだろうか?それとも怒るだろうか?
怒るかもしれない。
自分に厳しい分、他人にも厳しい人だ。
約束を破るなんて最低な者のすることだ、と怒鳴って、蹴っ飛ばして。
そして最後にたった一人で静かに泣くのだ。
小松は包みを開くと迷わず包丁を手に取った。
中身は小松が記憶しているままの状態を維持していた。
きっと主人たちが大切にしまっておいてくれたのだろう。
小松の持つ包丁は手にしっくりと馴染んでいるようで、大きな目をこの時ばかりは細めてためすすがめつしている。
「あの・・・お風呂に入るのはこれを研いでからでも?」
どうやらココには完璧に見える美しい包丁も、小松にかかればかくすんで見えたらしい。
確かにしばらく使わず放置していたものだ。
両親の形見でもあれば、手入れをしたくなる気持ちも分かる。
「構わないよ。それは小松くんの包丁だ」
ただでさえ息を呑むほどに美しかった包丁は、小松の手により更に研きぬかれ、それ自体が輝いているようだった。
「…よし。すみませんけどココさん、お風呂いただきますね」
そこまで磨いで漸く満足したのか、小松は砥石を洗い、また布に包み直した。
「あぁ…うん。いってらっしゃい」
小松の所作を引き込まれたように見つめていたココは我に返って小松を見送る。
全く小松には驚かされる事ばかりだ。
一体どこの一角の料理人かという程の腕を持ちながら、話を聞く限り師と呼べる人もいそうにない。
完全オリジナルでその腕を磨いた…しかも子供などと通常考えられる事ではない。
彼ならもっと大きな街に行けば目を見張る程の成長をみせるに違いない。
それだけに非常に惜しい。
そう。だからなのだ。
自分が何時まで経っても彼に区切りをつけられないのも。
あまつ彼に引き込まれてしまうのも。
テーブルに置かれたままのジュース。
中身は一向に減っていないそれ。
このまま放っておけば小松はいずれ本人の意志に関わらず衝動的に人を襲ってしまうかもしれない。
いや、その可能性は高いとココは踏んでいた。
食事を拒否する事は生きる事を拒否するにも等しい。
通常ならその時点で小松に生きる意志なしと判断してもいいところだ。
だが昼用に買ってきた食材を見れば、もう一度彼の料理が食べたいと思ってしまう。
手料理を食べれば食べる程、殺しにくくなる。
そんな事は百も承知だ。
だが、分かっていて尚ココを魅了するその味。
「…参った。これじゃあ本当に食いしん坊じゃないか」
食い意地が張っている自覚など今までなかったのだが…
帰ってきた時の状態や小松の様子を見れば、小松が今は悩んでいない事は分かった。
つまり、小松の中での結論は出たという事。
そしてそれは、ココが望む応えではない。
タイムリミットは近付いている。
いや、逆に考えれば限界が来るまでにはまだ少し時間がある。
それまでに何とか違う方法を・・・・
小松以上に自分が必死になっているようだ。
気を取り直す為にココは放置されたままのグラスの中身を流しへと傾け、グラスを洗った。
* * *
イメージ、茂松。
名前出すかどうかは迷い中・・・回収出来ないフラグを立ち上げてしまうかもしれないので(汗)