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設定作りこみすぎた故の敗北。
今更引き返せないので、このままだらだら続きます。
ぶっちゃけ5まで書いておいて、起承転結のまだ”起”部分ないんだぜぃ★
・・・私は何がしたいのか・・・つか終わるのか、これ・・・?
「あれ?なんかニンニクの匂いがしますね・・・」
キッチンの前を通る時、スンスンと少年が鼻を鳴らした。
「あぁ・・・そう言えば、昨日差し入れをもらったんだった」
昨日から置きっぱなしだった事を思い出す。
もし痛んでなければ、後で朝食にしようと決める。
「ふふっ・・・この匂い、教会のお隣のおばさんですね」
「知ってるのかい?」
「はい、ちょっと味付けが濃いんですよね・・・旦那さんが酒豪だから」
相変わらずだなぁ、とクスクスと笑う少年のセリフは、随分と大人びていた。
最初から口調が随分と丁寧だ。
苦労しているのかもしれない。
他人の生い立ちに興味などないが、子供が子供らしく生きていけなかったというのは不憫だ。
憐れみを感じて少年を見下ろす。
しかし彼は特に頓着することもなく、直ぐに意識を別にやった。
少年が興味を持ったのは、ココの胸元だ。
「・・・これ、司祭様のと同じだ・・・」
先ほど鼻っ面に押し当てられた十字架。
すぐ目の前にあった胸に下げられたそれを縛られた不自由な両手で持つと、しげしげと観察した。
物珍しげに自ら触れるのは、嫌悪感も何もない証拠だ。
この時点でほぼ疑いは晴れていたが、せっかくなので目的地まで歩く。
辿りついたのは、礼拝堂だ。
小さな村故、ステンドグラスやパイプオルガン荘厳な絵画や像などはない。
ただひっそりとした静謐な空気が、礼拝堂内を満たしていた。
少年は深く息を吸い込んだ。
「はぁ~・・・やっぱり、朝の教会は良いですねぇ」
心が改まるようだ、と呑気に言う少年を祭壇に下ろす。
「名前を聞いても良いかい?」
ようやくココは少年の四肢の戒めを解いた。
どうやら今度こそ疑いは晴れたらしい。
「あ、すみません、名乗りもせず!ボクは小松と言います!助けて下さってありがとうございました!」
ぺこりと小松と名乗った少年は頭を下げた。
殺すかもしれない人の名を聞くつもりはなかった。
だが、本当に吸血鬼に変貌してしまったなら、神聖な空気漂う礼拝堂の直中、飾られた十字架の目の前で呑気に挨拶などしていられないだろう。
「悪かったね」
必要な事とは言え、先ほどまでの扱いを受けて不快だっただろう事は想像に難くない。
しかし小松の意識はそこにはなく。
「ふわぁ…そう言えば随分綺麗になりましたねぇ」
朝日で眩しいのかと思っていたけれど、と感心するように礼拝堂を見渡した。
「昨日頑張って磨いたからね」
苦笑しながら応える。
少年の興味は常に外に向いており、あのような目にあっても、内に向くことはないらしい。
「そう言えば司祭様っていつこちらに来られたんですか?」
「昨日の昼からだけど、まだ正式な取り決めなんかはこれからだよ」
「じゃあやっぱり夜も教会にいたんですね…」
ガクリと小松はうなだれた。
「君こそどうしてあんな時間に森の中に?」
「うっ…それは…」
気まずそうに小松は話し始めた。
小松は以前の老獪な司祭の身の回りをよく世話していた。
5年ほど前に両親が不慮の事故で亡くなって以来、司祭に良くしてもらった事の恩返しだったという。
「そう、5年も前に・・・」
「いいえ、そんな事は・・・もちろん、悲しかったですけど・・・」
「でも、頑張ったんだね」
小松自身は教会関係者でも何でもないが、老衰し、次第に思うように体を動かせなくなった司祭のかわりに、
教会の掃除や、司祭の身の回りの世話、時には助祭の真似事などもしていた。
「でも僕じゃ、あんな高い場所まで手は届かなくて・・・って前の司祭様も届いてませんけど」
長身のココを改めて見上げて、小松は微笑んだ。
「もしかして、以前の司祭が亡くなった後、小松君が掃除してくれてたの?」
「えぇ、まぁ・・・・」
人が居ない建物は寂れる。
小松も仕事をしているから、毎日という訳にもいかないが、手の開いた時など、出来る限り掃除に来るようにはしていた。
「それは大変だったね・・・おかげで昨日の掃除は楽だった。ありがとう」
そう言ってココは微笑んだ。
どくんっと訳もなく心臓が跳ねて、思わず顔を背ける。
「どっ、どういたしましてっ!」
動揺のまま語尾も変な風に跳ね上がってしまった。
美形に微笑まれるのは、例え男であっても心臓に悪い。
「そ、それで、その、村長さんに新しい司祭様がいらっしゃってるって聞いたので、ボク、様子を見に行ったんですけど」
「手伝いに来てくれたのかい?」
「仕事終わってからだから、かなり暗くなってたんですけど、教会にも奥の家の方にも明かりがついてなかったので・・・」
状況を説明している内にどんどん自分が情けなくなってくる。
「まさか、ボクを探しに行く為に森に入ったのかい?」
「はいぃ~・・・」
最後はココが引き継いでくれた。
通りすがりの旅人ならともかく、このような辺鄙な村には、基本的に若い人材は来ない。
当然新しい司祭も老人だと思ったのだ。
前の司祭の手伝いもしていたので、大抵の事はわかる。
小松は村人より一足先に司祭に挨拶して、必要なら身の回りの世話もして、と思って教会に来た。
しかし周りがうす暗くなっているのに、どこにも明かりがついていない。
村の外れである事もあり、散歩中に東の森で迷いでもしたのか、と心配になった。
慌てて探しに行ってみれば、自分が迷い、更には吸血鬼に出くわして、襲われた。
そこをココに助けられたのだ。
助けるつもりが、助けられた。
「そうかい、すまなかったね」
「いえっ!ボクの方こそ、助けていただいてありがとうございました!」
こんな若い神父が司祭としてこの村に来るとは思っていなかったのだ。
先に聞いていれば、そこまで心配しなかったかもしれない・・・
いや、他に行く場所もない新参者が居るべき場所にいなければ、やはり心配して探しに行ったかもしれない。
落ち込む小松を宥めるように、ぽんぽん、と手を頭に置いた。
「君が無事で良かった」
「ふふっ・・・やっぱり司祭様同士って似てるのかな・・・?前の司祭様も良くこうしてくれました」
くすぐったそうに頭に置かれた手を掴む。
「ココで良いよ」
「え、でも・・・」
「小松君に呼ばれると、どっちの司祭の話をしているか分からなくなりそうだしね」
「あ、すみません・・・」
「いや。それだけ君が前の司祭を特別に思っていたんだろう」
「・・・優しい方だったんです。両親が亡くなったボクに、働ける場所を紹介していただいたり、僕の料理を褒めてもらったり・・・」
最後はちょっとボケちゃったんですけど、と苦笑しながら小松は告げた。
穏やかな死だったのだろう。
小さいながらに何人もの人の死を経験していても、小松にすれたところは見当たらない。
「そう・・・大変だったね・・・」
気の利いた事の一つでも言えれば良いのだろうが、ありきたりなセリフしか思い浮かばなかた。
願わくば、この小さな友人に幸あらんことを。
この笑顔が曇ることなからんことを。
ココは小松を助けられた事に、小松と出会えた事を神にそっと感謝した。
つづく。