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メルクに倣って・・・などと下手な色気を出して砥ぎが失敗したかに見えたマイ包丁、洗いものを片付ける時にふっと指をかすめただけですぱっと指が切れちゃいました。
いや、まぁ大した深さではないんですが。
・・・あれ?ちゃんと砥げてた、って事?
それとも本当に綺麗な切り口ならすぐ血が止まる筈なのに、止まらないのは綺麗な切り口じゃないって事?
それともそれとも、ショボい砥石でいくら磨いても、もともとの切れ味にそう影響はしてないって事?
以下はパロココマの続きです。
「…静かですね…」
サクサクと自分の歩く足音しか聞こえない。
森はこんなに静かな場所だっただろうか?
沸き起こる不安を誤魔化すように告げる。
「そうだね」
答えてくれるココもどこかしら気が漫ろだ。
あれほど呑気にしていたトリコだって、話してくれなくなった。
ただ時折立ち止まり鼻をヒクつかせたかと思うと厳しい視線を這わせ、迷いない足取りで歩いていく。
そこでようやく小松は気付いた。
トリコの足音がしないのだ。
最初は大きな体躯に見合っただけの足音がしていた筈。
ココは元々静かな方だったが、そのココの足音だって耳を澄ませても聞こえないなんて事はさっきまではなかった。
そして何より虫の音や動物の足音だって聞こえない。
聞こえるのは草を掻き分ける音と小松自身の足音のみ。
森自体が生命活動を止めてしまったかのようだ。
先ほどまではこんなに音がしていてはハントする動物が逃げてしまうのではないかと思っていた。
けれどもこれがトリコの本気なのか。
森が静かな理由は小松には分からない。
けれどやはりハントは凄いな、と小松はドキドキしながらトリコを追った。
ザザッ。
唐突に草むらが終わり、開けた場所に出る。
そこはあまりに不穏な空気に満ちていた。
小松ですら訳も分からずごくりと唾を飲み込む。
小松が気付くより先にトリコとココはとっくに気付いていたのだろう。
森を分け入った先に見つけた崖下の少し開けた場所。
日中である筈なのに、木々に邪魔されてか陽光の恩恵は受けずに薄暗く、更に影になるように切り立った崖下に、ぽっかりとまるで奈落の底へ呼び込むような洞窟への入り口が開いている。
「こ…これが倍ソンの巣ですか…?」
声を発した小松の全身が震えている。
残念ながら答えはNOだ。
倍ソンは穴蔵に巣を作るタイプの猛獣ではない。
しかし倍ソンがいると知った上でここを見てそう勘違いする村人がいたのかもしれない。
獣はこんな底冷えのする様な近寄りたくない生理的な嫌悪をもよおす場所には近寄らないだろうが。
見つけたくないものを見つけてしまった。
時折小松が居ない時を見計らって森に行くココが探していたものでもある。
城のような建築物ではなくても、あるかもしれないとは思っていた。
けれども無ければ良いと望んでいた。
二人に今小松の言葉に悠長に答えてやる余裕は無い。
トリコは全神経を集中させる。
ココも目線は洞窟の入り口を見据えたままだ。
かわりにココはそっと小松の肩に腕を回した。
電磁波にそれらしいものは映ってこない。
だが小松ではあるまいし、こんなに日のある内に活動出来ないだろう。
もう居ない捨て置かれた場所なのかもしれない。
「…臭うか?」
「微かに。けど濃い。2ヶ月や3ヶ月の話じゃねぇ」
臭いも微かと言う事はやはり今は居ないのだろう。
しかしこれだけ強く気配が残っているのは小松が襲われた時期より遅い、最近まで住んでいたと言うこと。
「どうする?」
「どうするもこうするもねぇよ」
くいっとトリコは顎をしゃくった。
もしかしたらまだ完全には回復しきらず、しばらくの休憩の後、再び南へ下ったのかもしれない。
神父から逃げただけかと思っていたが、体力を消耗していれば、最初に出会った時にココとの戦闘を避けたのもあり得る話だ。
ココは無言で首を振る。
「居ないんだろう」
「今はな」
希望的観測だとトリコは告げる。
ココがトリコに告げた国向こうの吸血鬼ではない場合、今はこの洞窟に居ないだけで、近くに別の住処がある可能性だってある。
ココもトリコと二人きりなら頷いたかもしれない。
けれどココの腕の中には小松がいた。
今も可哀相な程ガタガタと震えている。
深入りすべきじゃない。
これ以上小松に無理はさせられない。
「戻ろうか、ここには動物は居なさそうだ」
そう言ってココは小松を促した。
「で、でも…」
来た道を戻るように言われ小松は振り返る。
「トリコの仕事は村の食料庫をいっぱいにする事だからね。動物のいない所にこれ以上用はないさ。それより急がないと日が暮れてしまうよ」
笑顔でココが答える。
振り返れば、不満そうな顔をしながらもトリコもついてきていた。
あの洞窟の事が気になりながらも、トリコとココの二人が行くつもりもない所に入ろうとは思わない。
小松にとっても近寄りたくない場所であったのだから。
二人ともいつになく真剣な顔だった。
なんとなく後ろ髪を引かれながらも来た道を引き返す。
だがあの洞窟はどこかおかしい。
森に本来あるべきものではない。
森の中にありながら、森の一部ではない違和感。
それが小松の中でいつまでも燻っていた。