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拍手ぱちぱちありがとうございます。
ちょっと遠出して野菜メインの食事をしてきました。
これで日頃の野菜不足解消!
・・・本当は続けなきゃいけないんだろうなぁ。
とりあえず購入した人参茶でも飲んでみようと思います。
何も気にせず珍しいからと思って買ってみたけど、実はもしかしたらかなり甘いのかもしれない・・・
と匂いで思いました。
以下はココマパロの続きです。
「お湯いただきました~」
暫くすると小松が私室に戻ってきた。
煤汚れを落とし、随分小綺麗になった。
ココはいつもの椅子で読書をしていたが、そう言って部屋に入ってきた小松をジッと見つめる。
確かに綺麗にはなった。
だが湯を使ったにも関わらず、やはり顔色は悪いままだ。
温まっていないわけではないだろう。
身体からはまだわずかに白い湯気が立ち上っている。
「あ、の・・・?あ、お出かけします、か・・・?」
どうしてそこまで見つめられているのか分からない小松は、ココの視線に勝手に見当をつけたらしい。
さっさとベッドの上に上がってしまった。
大人しく枷を嵌められるのを待っているらしい。
ココが先ほど小松を縛らずに出かけた事は棚にあげられているようだ。
そんな小松を見て、ココは静かに椅子を引いて立ち上がる。
しかし近寄ってくるココは手ぶらだった。
昨夜から使われてない枷は仕舞ったままで見当たらない。
「ココさん・・・?」
話しかけても応えてくれないココは、小松が吸血鬼に変貌したと分かった時の態度と似ている。
けれどあの時はキッパリとした拒絶の意を感じたが、今はその時とは少し違うように感じた。
「あの・・・・?」
------悩んでいる?それとも緊張している・・・?
無言のまま近寄ってくるココの意図は読めない。
もしかすると、苦しまずに殺せる方法を模索しているのかもしれない。
何が起こってもココの判断を受け入れよう、と小松は腹をくくった。
あぁ、遺書の一つでも書いておけば良かったかもしれない。
けれどレシピが残ってるからそれが遺書がわりでも良いかな。
ぎゅっと目を閉じると、覚悟を決めた筈なのに色々な事が脳裏を過る。
後悔していないなんて言えない。
もっと生きたかった。
もっと料理をしていたかった。
でもそれは”人間として”であって、人の血液を啜ってまで生にしがみつきたい訳じゃない。
ココは司祭だ。
きっと魂を素早く天に送り届けてくれる。
小松の傍まで来たココは、膝を曲げてしゃがむと小松の顎を持ち上げる。
ぎゅっ、と目をつぶった。
ふにゅ
小松が覚悟していた以上に柔らかな感触に目を開くと、視界はココの顔の一部でいっぱいだった。
「!?…?!」
驚きのあまり言葉もなく硬直する小松を眺め、大丈夫そうだと判断すると、今度はチロリと舌を出して唇を舐める。
唇の合わせ目を端から端へと一舐めすると、ココは何事も無かったかのように立ち上がり、小松の反応を待った。
「…」
硬直。
テーブルの方へ戻ると、水差しを手に取り、グラスに水を注ぐ。
静かに飲み干すと、ココはもう一度グラスに水を注いだ。
「小松くん?」
振り返って声をかける。
「に…」
「に…?」
「にゃーー!何事ぉぉー?!」
「やぁ、おかえり、小松君」
小松の大声も予想していたのか、ココは動じることもなく笑顔で受け答えする。
「おっ、おかっ、おかえりじゃないですよっ!」
びっくりし過ぎて舌が上手く回らない。
ココは慌てる小松に手をかざした。
「それより小松くん。気分は悪くないかい?」
「は?」
訳も分からず目を白黒させる。
「気持ち悪いとか唇が痺れるとか…」
グラスを手に近寄り、空いた方の指で先ほど舐めたばかりの唇を辿る。
感触を思い出したのか、どかああぁぁっと小松は一気に頬を紅潮させた。
「くっ唇が痺れるとか痺れないとか気持ち良いとか悪いとかの話じゃありませんっなんて事するんですかっビックリするどころじゃないですよおぉぉー…!!」
最後の方は息が続かなかったようだが、一息にそれだけ言い切ると小松はぜーはーと肩で息をした。
「小松君、はい、水。飲むだろう?」
グラスを差し出せば素直に受け取った。
風呂上がりで喉が乾いていたのか、ゴクゴクと水を飲み干した。
「わぁ!わざわざありがとうございます…って違うー!!」
「まぁ今の君を見ていれば平気そうだけれどね」
「さっきから会話が成立してない気がするんですけどー!?」
さっきから何を言われているか分からない。
頭が混乱し過ぎて処理能力をオーバーしてしまったようだ。
「ねぇ、小松君。キスしようか?」
「だ、だから会話がっ!!ちゃんと会話しましょう、ココさん!!僕の声聞こえてます!?」
キス?!
キスってさっきしたような?!
何でっ!?
問い質したい事がいっぱいだ。
そんな小松の様子を見ていない訳でもないのに、ココはそのまま自分の話を続けた。
「毎日一時間」
「い、一時間!?そ、それって今の話の続きですか!?」
一体どういう了見でそんな事になっているのかさっぱり分からない。
冗談にも程がある。
「先に言っておくけど、冗談じゃないよ?」
「ええええええ!?」
どうやらココは言いたい事を言うまで止まらないらしい。
「キミは今、食事を必要としている。それは間違いないと思う」
「え・・・」
急に現実に触れられ、小松は言葉を失った。
ココは変わらず話し続ける。
「もし、君の栄養源が人の赤血球だった場合、いずれ選択しなければいけない訳だが」
選択とは先ほどの血液製剤を飲むかどうかという事だろう。
「もし人の体液が栄養源なら、唾液でも良いんじゃないかと思ったんだ。唾液にも酵素や抗体なんかも含まれるしね」
「はぁ、それで・・・」
「ただ人の唾液は一日に1.2~1.5リットル。そんなに沢山出るものじゃない。血液を飲む事に比べると効率が悪いからと言って、その量を補う為に一日に五時間や六時間もキスし続けるのは不可能だろう?けれど毎日少しずつ摂取すれば・・・」
「もしかして僕、血を飲まなくても生きていけるって事ですかっ!?」
ぱぁぁっと小松の顔が明るくなった。
吸血鬼となった者は欲望のままに獲物を見つけては血を啜るが、元々生きるために必要な量はそう多くない。
余程少量ずつでなければ、毎日でなくとも構わない。
状況によっては一か月や二か月食わなくても平気な吸血鬼もいるくらいだ。
「保証はしない。ただ仮説を立ててみただけだから。けれどやってみる価値はあると思う。これで少しは顔色が良くなると良いんだけど・・・」
ぽつり、と零された台詞に、小松は目を見開いた。
まさか風呂に入る前に言われた”良くなる”とは顔色の事だったのだろうか?
飢えた状態でなさそうなら、血色よく元気そうなら、ココは宿屋の主人に挨拶に行かせてくれるのか?
ココの台詞に希望が見えてくる。
「その、キミを実験台のように扱って悪いけれど・・・」
そこまで心配してくれるココに小松は胸がじんと熱くなった。
人によっては小松は研究しがいのあるサンプルだ。
ココに小松をそのように扱うつもりはないが、分からない事が多すぎてココには何一つ保証してやれる事はない。
------そう、小松の生死さえ今は不確定要素に塗れたままだ。
だが、積極的に殺したくない。
殺さないで済む可能性があるのなら、出来るだけの手段を講じたい。
そのくらいにはココは小松を好いていた。
「そんな事ありませんっ!あんなの飲まなくて生きていけるんなら、キスでも何でもっ・・・・あ・・・でも、ココさんは・・・」
言葉を濁してココを伺う小松を安心させるように頷いた。
「あぁ、だからさっき試しただろう?僕の血液は君にとって毒だからあげる訳にはいかない。まぁ君も飲むつもりはないのだろうけど」
やはりしっかり見抜かれている。
「けれどこっちは血液に限られるようだね。小松君は僕の唾液には拒絶反応を起こさなかったようだから」
「それでさっきの・・・」
むしろそれこそ実験台なのではないか、なんて頭の隅で思う。
もし駄目だったら小松の唇は焼け爛れていたかもしれないのだ。
まぁ最初の朝もいきなりカーテンを開けられたし、十字架を顔に押しつけられたりもしたし、今更どうこう言うつもりもない。
けれどその説明を最初にして欲しかったと思うのは間違っているのだろうか?
いやいや、ココは小松の為に考えてくれたのだ。文句は言うまい。
「・・・って!違います違います!ココさんの血は毒とかそんな事ではなくてっ!僕はともかく、それってココさんも僕と毎日キスしなきゃいけないって事なんですよっ!?」
小松の疑問とココの回答は根本的なところでズレている。
キスの衝撃で毒の事なんて言われるまですっ飛んでいたくらいだ。
「うん、それで?」
平気な顔で応えるココが小松には信じられない。
「それでって!ココさんモテるのに!変な噂が立っちゃったらどうするんですかーーーー!」
ミサの時の話を聞いただけでもココの人気っぷりは伺える。
「知らないのかもしれないけれど、司祭は婚姻出来ないんだよ?」
「そぉーいう問題じゃないですっ!」
ココのファンには確実に旦那や子供がいるような熟年の女性も含まれている事だろう。
だって基本的に人の少ないこの村には、年頃の若い娘の数も少ない。
ミサの時に倒れたと聞いた人数が既に未婚の年頃の娘の数を上回っていそうだ。
結婚しているしていないなど、ココの反則的な魅力の前には関係ないのだ。
むしろ村の男衆から文句が出ないのが不思議なくらいだ。
「小松君」
「はいっ!?」
混乱しながら返答したが、ココの真顔を見て冷水を浴びせられたような気持ちになる。
「何か勘違いしているようだから言うけどね・・・」
「僕は、小松君が誰彼かまわず人を襲うような吸血鬼になってしまったなら、君を殺すよ」
ドン
その一言は小松の胸に重く響いた。
「わ、分かって、います・・・」
応える声が震え、小さくなってしまう。
「君は人工のものですら、何が何でも血を飲みたくないんだよね。頑固だけど、人間的でもある。
小松くんの気持ちも分からないではないから、他人を襲わないでいることを守ってくれる限り、僕は最大限の努力をしよう。
必要と判断したら、さっきの人工血液を調達する。でもそれは本当に望む事じゃない。代案があるなら色々試してみたいと思う。
キミだってキスの一つや二つで生きていけるなら、喜ばしい事じゃないか」
「でも、それだとココさんのメリットがありません・・・」
「殺さないで済む。それが一番だよ。それに・・・君の料理は美味しいんだ。・・・とても、ね」
パチリとウインクを返され、小松は慌てて顔を逸らした。
ドッドッド
自分の心臓が暴れて煩い。
頬が赤くなってしまうのは自分の料理を褒められた為か、それとも・・・・
「まぁ、あまり深く考える事はないよ。さっきのように僕の口をつけたコップで水を飲むのとあまり変わらないさ。男同士だし、変に気負う事もない」
「そう、ですかね・・・」
回し飲みとはだいぶ違うと思うのは、小松だけだろうか・・・?
まぁ、この調子ではココとの仲を誤解するような特定の女性はいなさそうだし、何よりココ自身が気にしないなら良いのかもしれない・・・
だが始終この調子なら村の女性全員がココにオチる日はそう遠くないのではないかと思われる。
「ココさんって司祭様のくせにタラシですよね・・・」
「ん?」
「いーえ、なんでもありません」
小松は言及を避けた。
歯医者さんの型どりが苦手です。
口の中に入れられた瞬間、オエッとなります。
固まるまでの間に5回くらいオエッとなります。
作ったマウスピースを入れても、小さくしない限りオエッとなります。
もう私、涙目。
あんな異物を口の中に入れて平気な人たちは凄いな!と尊敬すらします。
私、絶対入れ歯になんかならないんだからね!
以下はパロココマの続きです。
買い物袋を手に宿屋を訪れる。
そこでココは小松が宿屋で働く意味を理解した。
ずっと不思議だったのだ。
旅人すら滅多に通らない村に、宿泊施設などで働き口などあるのだろうか、と。
主人が余程の老齢か身体が不自由なのかと思っていたのだが。
宿屋の看板以上に目立つ、食事処のマーク。
宿泊した者には食事が必要だ。
大抵の宿屋は一階に酒や簡単な食事を振る舞える処がある。
だがむしろこの村では宿泊施設よりこちらの方がメインなのだろう。
あのような料理が出るのだ。
旅人に限らず村人も来るに違いない。
今はまだ早い時間帯で営業しているのかどうか分からなかったが、ノックをすれば返事があった。
「こんにちは。失礼します」
「あら!あらあらあらあらまぁまぁまぁ!司祭さまじゃありませんか!」
頬を赤らめいそいそと近づいてきたのはエプロンをつけた、おそらく女将さんだ。
「お召し上がりですか?まだ営業時間まで間があるけれど、司祭さまなら…」
「いいえ。申し訳ないですが、それはまたの機会にさせていただきましょう」
こういう手合いは放っておくといつまでも喋り続ける。
キッパリと断ってこちらの要件を告げた。
「ご主人はいらっしゃいますか?小松くんの事で少しお願いがありまして…」
「まぁ!わざわざ…」
「小松が世話になってます」
夫人が答える前に返答がきた。
奥の勝手口らしき場所から薪を担いでのそりと入ってくる。
髭の濃い、かなり体格に恵まれた人物だった。
眼光も鋭く、紹介されなければとても一介の宿屋の主人には見えないだろう。
小松とは似ても似つかない。
まぁ血の繋がりはないので当然ではあるのだが。
小松が世話になっていますと殊勝な挨拶をしながら、値踏みするようにココを見据えている。
外見や噂に惑わされないぞと言わんばかりの様子に、逆にココは信用出来ると踏んだ。
相手にもそう思われていると良いのだが。
「小松くんが大事にしていたご両親の形見を預かりにきました」
そう切り出せば、すぐ分かったようだ。
主人が顎をしゃくると夫人が奥に消える。
「それで、どうなんだ」
小松の事を聞いているのだとはすぐ分かった。
「村長は何とおっしゃいましたか?」
結論だけ言えば元気なのだが、どうしても返答は慎重になってしまう。
「…まだしばらくはそっとしておけ、と…」
むすっとした表情でそれだけ告げる。
村長からの指示で見舞いに行くのも止められているらしい。
主人が不本意なのは明らかだ。
感染症ではないと言っておいたのに・・・とココは臍をかんだ。
村長からすれば、蔓延してからでは遅い、との安全策なのだろう。
ココの言葉を信用していない。
万一感染症だったとして、ココと小松を隔離すれば済む。
むしろ教会は村人の家から離れているので好都合だ。
小松は元々一人ものだし、司祭はまた新しく派遣を要請すれば良いくらいに思っているのかもしれない。
そして悔しい事に、村長の行動はある意味間違いではないのだ。
反論は出来ない。
ココが居れば問題ないと言いたいが、まだココは新参者。
信用どころか下手をすれば疑いを持たれかねない危うい存在でもある。
村をまとめる者として、警戒する事も必要なのだ。
対して宿屋の主人からは純粋に小松を心配している様子が伝わってくる。
前任の司祭の紹介だと言うからあまり疑ってはいなかったが、悪い人間ではないようで安心する。
愛想はないが、むしろ小松を見て態度を変えた村長より信用できるくらいだ。
いや、この主人も斑点の浮き上がった小松を見れば態度を変えるのだろうか?
そう考えると少し哀しい。
「そうですか・・・ですが昨日村長がいらっしゃった時よりは落ち着きました。形見の事を言い出したのも小松くん自身です。ただ顔色はまだ悪いので今しばらくは様子を見ていきたいと思います。村長のご了承もいただいてます」
初対面の人間に形見を預かると言われてもそう納得出来るものでもないだろうが、小松自身の望みであり、死に面している状況でもないという事を伝える。
直接来て貰っても良いかもしれないが、見舞いは村長の警告を受けているから無理だろう。
「もし僕が信用に足りないのであれば、小松くんに言って手紙を書いてもらいます」
誠意を持って告げれば、主人も少し安心したようだ。
ゆっくりと首を横に振ってから、奥に声をかけた。
「おい」
話が終わるまで奥で控えていたのかもしれない。
夫人が布の塊を持ってきた。
「こちら…ですか?」
テーブルに置かれたものを見つめる。
お世辞にも綺麗な布とは言えない。
両親の写真等を想像していたので、意外だった。
だがどれだと迷うでもなく持ってきたので、間違いはないのだろう。
主人は布の包みを開いた。
「これは…」
ココは現れた物を見て思わず息を呑んだ。
濡れたような霞み仕上げの二振りの包丁と砥石。
「業物ですか…?」
名のある刀工の作だろうか。
親の形見だと言うのなら、親は鍛冶師だったのか。
村にはもう一家鍛冶師がいるようなので、元々この村には鍛冶師が二人いたのかもしれない。
己の手脂で汚すのも躊躇われ、ただ食い入るように見つめる。
だが帰ってきた答えはそっけないものだった。
「さぁな。少なくとも俺は聞いたこともない」
「そうですか」
ココもそれ以上聞こうとは思わない。
正直もう亡くなってしまった鍛冶師の名より、この包丁を使用した小松の料理を食べてみたい。
ココが食べた以上に更に美味しくなるかもしれないと思えば自然と口内に唾液が溜まる。
溢れそうになるそれを飲み込むのにココは苦労した。
「…お預かりしても?」
「あぁ。小松に早く顔を出しに来いと伝えてくれ」
主人は再び布で包むと、ココの方へ押し出した。
一応、信用されたらしいと判断する。
おそらくあれを見て目の色を変えるようでは預けてはもらえなかっただろう。
実際、名がなくとも売り飛ばせばかなりの値段になりそうだ。
「はい・・・必ず」
ココは謹んで小松の両親の形見を受け取った。
「今度はお食事にいらっしゃって下さいな」
小松がいればそれも良いかもしれない、と自分が外食して周りに与える影響など考えもせずそう思うとココは宿屋を後にした。
「司祭さま!買い物袋をお忘れですよ!」
「えっ?!あ、すみません」
「うっかりなんですのね」
夫人は朗らかに笑ったが、包丁に気を取られすぎて買い求めたものを忘れるなど今までにない失態をして、恥ずかしく思うココだった。
「ただいま」
まだ洗い物をしているのかとキッチンへ行けば、何やらキッチン周りの大掃除になっているらしい小松に声をかける。
「お帰りなさい、ココさん」
竈から出てきた小松は煤に汚れて真っ黒になっていた。
別れた時のギスギスした雰囲気はどこへ行ったのか。
「わぁ!沢山買いましたね!」
ココの大荷物を見て声を上げる。
小松が頼んだ分より明らかに多い。
むしろ他の買い物の方が多かったようだ。
「小松くんに言われたものしか買ってないんだけどね。新しい司祭がもの珍しいんだろう。皆気前良くサービスしてくれたよ」
そんな珍獣のような表現をしなくても良いんじゃないかと思うが、ココにとってはそんな気分なのだろう。
いくら好意からとは言え、過ぎた好意は煩わしいだけだ。
小松なら明らかにふらつきそうな量の荷物をドサリと下ろす。
「今日の晩どころか二三日は買い物に行かなくても良さそうですね…」
荷物を袋から出せば、さまざまな食材が顔を出す。
ちらりとココの視線がテーブルの上のグラスに注がれたが、小松は気付かないふりをした。
キッチンの掃除の間も、わざと片付けず手もつけずに置いてあるのが無言の意思表示だ。
だがココも今は言及するつもりはないようだった。
ココがどれだけの猶予を小松に与えてくれるのかは分からない。
だが、ココがどれほど時間をくれようと、小松の答えはもう決まっていた。
決まっているからこそふっきれた態度も取れるのだが、ココの方も普通に話しかけてくれる理由までは小松には分からない。
「それより小松くん、後は僕が引き受けるからお風呂に入ってくると良い。鼻の頭も真っ黒だよ」
ココの指が伸びて小松の鼻を掠める。
見せられた指の腹は煤で真っ黒に染まっていた。
よく見れば服もかなり煤けている。
「すみません、お言葉に甘えます」
風呂に入ろうと小松はざっと手を洗った。
「あ、その前にこれ」
すれ違う時に布の包みを手渡す。
「わぁっ荷物も重かったでしょうに寄って下さったんですね!ありがとうございます」
「宿屋のご主人が、元気になったら早く顔を出せって言ってたよ」
「・・・そう、ですか・・・・」
切なそうに目を閉じる。
小松には分かっているのだろう。
もう二度とそこに戻る事は出来ないのだと。
小松の覚悟を感じ、ココは目を見開いた。
実際、今の言葉でそこまで追い詰めるつもりはなかったのだ。
むしろ本当に心配していた様子の主人を安心させてやりたい気持ちの方が強い。
「良くなったら、一緒に挨拶に行こうね」
ぽろりと口をついた一言に、小松が泣きそうな顔をした。
良くなったら。
それは何を基準に言うのだろうか。
実際小松は今現在一人で立って、普通に動いている。
病気とは言えないだろう。
吸血鬼になったものが人間に戻るなど聞いたこともない。
人間に戻れるとすれば、それは。
「・・・・はい」
冷たい屍になった自分と再会する主人は、泣いてくれるだろうか?それとも怒るだろうか?
怒るかもしれない。
自分に厳しい分、他人にも厳しい人だ。
約束を破るなんて最低な者のすることだ、と怒鳴って、蹴っ飛ばして。
そして最後にたった一人で静かに泣くのだ。
小松は包みを開くと迷わず包丁を手に取った。
中身は小松が記憶しているままの状態を維持していた。
きっと主人たちが大切にしまっておいてくれたのだろう。
小松の持つ包丁は手にしっくりと馴染んでいるようで、大きな目をこの時ばかりは細めてためすすがめつしている。
「あの・・・お風呂に入るのはこれを研いでからでも?」
どうやらココには完璧に見える美しい包丁も、小松にかかればかくすんで見えたらしい。
確かにしばらく使わず放置していたものだ。
両親の形見でもあれば、手入れをしたくなる気持ちも分かる。
「構わないよ。それは小松くんの包丁だ」
ただでさえ息を呑むほどに美しかった包丁は、小松の手により更に研きぬかれ、それ自体が輝いているようだった。
「…よし。すみませんけどココさん、お風呂いただきますね」
そこまで磨いで漸く満足したのか、小松は砥石を洗い、また布に包み直した。
「あぁ…うん。いってらっしゃい」
小松の所作を引き込まれたように見つめていたココは我に返って小松を見送る。
全く小松には驚かされる事ばかりだ。
一体どこの一角の料理人かという程の腕を持ちながら、話を聞く限り師と呼べる人もいそうにない。
完全オリジナルでその腕を磨いた…しかも子供などと通常考えられる事ではない。
彼ならもっと大きな街に行けば目を見張る程の成長をみせるに違いない。
それだけに非常に惜しい。
そう。だからなのだ。
自分が何時まで経っても彼に区切りをつけられないのも。
あまつ彼に引き込まれてしまうのも。
テーブルに置かれたままのジュース。
中身は一向に減っていないそれ。
このまま放っておけば小松はいずれ本人の意志に関わらず衝動的に人を襲ってしまうかもしれない。
いや、その可能性は高いとココは踏んでいた。
食事を拒否する事は生きる事を拒否するにも等しい。
通常ならその時点で小松に生きる意志なしと判断してもいいところだ。
だが昼用に買ってきた食材を見れば、もう一度彼の料理が食べたいと思ってしまう。
手料理を食べれば食べる程、殺しにくくなる。
そんな事は百も承知だ。
だが、分かっていて尚ココを魅了するその味。
「…参った。これじゃあ本当に食いしん坊じゃないか」
食い意地が張っている自覚など今までなかったのだが…
帰ってきた時の状態や小松の様子を見れば、小松が今は悩んでいない事は分かった。
つまり、小松の中での結論は出たという事。
そしてそれは、ココが望む応えではない。
タイムリミットは近付いている。
いや、逆に考えれば限界が来るまでにはまだ少し時間がある。
それまでに何とか違う方法を・・・・
小松以上に自分が必死になっているようだ。
気を取り直す為にココは放置されたままのグラスの中身を流しへと傾け、グラスを洗った。
* * *
イメージ、茂松。
名前出すかどうかは迷い中・・・回収出来ないフラグを立ち上げてしまうかもしれないので(汗)
拍手ぱちぱちありがとうございます。
4日のお話なのですが。
小松限定のタイツ専用モデルという言葉に、ご飯吹きそうになりました。
ちょ、私タイツ専用モデルとか言ってないんだからね!
レギンスだって良いじゃない!
・・・・痛い・・・!痛すぎる・・・・!(←ちょっと想像した)
格好良いココどこ行った!?
以下はパロの続きです。
一応、このサイトは格好良いココ推し!です、はい。
バチッ
今までの寝起きがなんだったのかと思うくらい、小松は早朝にパッチリ目を覚ました。
だってする事がある。
既に昨夜の内にココの了承も取ってあるので、後ろめたく思う事もない。
ベッドから這い出して、視線を巡らせる。
ココはいつものチェアに座り、ひじ掛けに肘をついて目を閉じていた。
小松があまりに早く起きてしまった為、ココの方はまだ目覚めていないようだった。
すぐにでもキッチンに向かいたいところだが、ココが寝ている間に小松が消えたら困るだろうか?
起こしてから行くべきか。
しかし今まで見たことのないココの寝顔を見て、静かに眠る邪魔をしても悪いと思い直す。
小松はココに近寄ると、少しズレてしまっていた毛布を掛けなおした。
すぐ傍にあるテーブルに自分がキッチンにいるとのメモを残し、出来るだけ静かにキッチンへ向かう。
パタン、と僅かな音にココはそっと片目を開ける。
小松は気付かなかったようだが、当然ココは起きていた。
いつものように散歩に出なかったのは、夜に初めてベッドと繋がなかった小松を警戒しての事。
浅い眠りはあったが、起きて近づいてこられて目が覚めぬ訳がない。
警戒心が強い性格であることは承知している。
今まで多少でも与えていた小松の自由度は、実は全てココが無理せず対処出来る範囲内での自由。
厳密に言えば常にココの意識が届いているので、全く自由ではない。
恥ずかしい話ではあるが、注意が行き届かなかったのは小松がすぐ横にいた、昨夜食事をしていた時だけだ。
視線を落とせば、丁寧に掛けなおされた毛布。
脇のテーブルを見れば、習字でもしていたのかと思うくらい丁寧な文字がしたためられている。
近くにある知った気配なら追えるココには無用のものだ。
「全く…こんな事をされたら明日からまた縛り付けるなんて出来ないじゃないか…」
一人ごちたココの顔は、しかめ面とはほど遠かった。
コンコン、と律儀にノックをしてから小松がドアを開けた。
「おはようございます…」
起こすつもりだっただろうに、出されたのは囁き声だ。
「おはよう、小松くん」
既にすっかり身支度を整えたココが振り向けば。
「ご飯、出来ましたよ!」
そう笑顔が返ってきた。
朝食にと作られたサンドウィッチも美味しかった。
小松がパンから作ったならもっと美味しかったかもしれないが、それでもいつも以上に食べてしまったくらいだ。
小松も一緒にサンドウィッチを食べていた。
この調子であれば、腐らせずに済みそうだ。
伺うようにこちらを見ている小松に伝えれば、嬉しそうに相好を崩す。
しかし、ただ喜んでいるだけではなさそうだ。
「…何かな?」
尋ねればビクッと肩を震わせた。
「い、いえっ…あの…あ、あれっ。あれは神の血ですか?」
視線を彷徨わせた小松が指差したのは、確かに昨日使う予定だった筈の赤ワインだ。
「そうだけど…はい、小松君にはこっち」
まさか子供にアルコールを飲ませる訳にいかない。
別に次の週までとっておいて痛むものでもない。
ココはグラスに野菜ジュースを注いで小松に差し出した。
「ありがとうございます…」
素直に受け取ったものの口はつけず、考え込むように俯く。
明らかに迷っている様子に、ココは自ら水を向けた。
「で、本当は何を聞きたかったの?」
「いえ、ただお昼に使いたいものがあったんですが、ここにはないのでちょっと買い物とか行きたいなーと…駄目…ですよね?」
言っている途中でココの表情が硬くなったのが分かったのだろう。
流石に昨日の今日で小松を外にやる訳にはいかない。
「買い物ならリストアップしてくれればボクが行ってくるよ。」
「はい、お願いします。とりあえず・・・」
小松もココの態度が軟化しているとは言え、流石に自分が外に行くのは無理だとは分かっていたのだろう。
欲しいものをメモして、ココに手渡す。
「・・・うん、お昼までには揃えておくよ」
リストを見てココは請け負ってくれた。
「それで、その・・・」
「食材の他に欲しいものがあるんだね?」
ココは小松の飲み込んだ、言いたかった言葉をちゃんと理解してくれる。
伺い見たココの顔に否定の色を見つけられず、小松は申し訳ないと思いながらも自分の要求を重ねた。
「ボクの両親の形見なんですけど、お世話になってる宿屋に置かせてもらってるものなんです。どうしても、手元に欲しくて・・・」
小松にはまだしばらくはここに居てもらわなくてはならない。
「それはご主人に言えば分かるものかな?」
「はい。ボクが一番大事にしてるものですから」
小松なりに覚悟があるようだ、とはココも承知している。
今すぐ手を下すつもりはないにしても、今後も何が起こるか分からない。
そう思えば一番大事にしている形見を傍に置いておきたいという気持ちも分かる。
「分かった。買い物帰りに宿屋に寄るよ」
「ありがとうございますっ!」
それが一番の心配ごとだったのだろう。
今度こそ心からの笑顔を見せた小松は、憂いも無くなったとばかりにようやくココが渡したジュースを飲み干した。
「…んん…?」
いや、勢いよくグラスを傾けたものの、ほぼ口を湿らせた程度で飲むのを辞める。
少しだけ口に含んだそれをじっくり吟味しているようだ。
ココは内心舌打ちしたいくらいだった。
いくらはしゃいでいるとは言え、こんな料理のセンスを持っている者の舌を誤魔化すなんて土台無理だったのかもしれない。
けれど、気づかずに飲んでくれれば当面は問題なかったのに。
癖の強いものを意図的に選択して絞った野菜ジュースは、実際あまり美味しいと感じるものではないだろう。
それを嫌がらずにじっくり味わって更に違和感を訴える舌に、味を反芻しながら中身を分析する。
青臭い野菜に含まれた鉄分の臭いに気付いた小松はさっと顔を強ばらせると、シンクに駆け寄り自分の口に指を突っ込みだした。
トイレや洗面台に行く時間すら惜しかったのだろう。
うえーとかげぇーっとか言いながらえづいてはいるのだが、いかんせん飲み込んだものは吐き出せない。
「辞めるんだ、小松くん」
ココはなおも喉の奥へ奥へと入れられようとする指を掴んで引き出した。
「えぐっ…ひっ、酷い、ですっ…」
ココに抵抗を封じられてしまえば、小松には逃れられない。
えづく事も出来ず、ただ悔しそうに唇を噛み締めるだけだ。
騙し討ちのような事をしたのはココも認めるところではあるのだが。
「君こそ分かってるのかい?昨日の夜から随分顔色が悪い。栄養を取らないといけないんだ」
昨夜は病み上がりという可能性も考慮して少し時間を置いたが、笑顔になど騙されない。
小松の顔は昨夜から随分と血の気が失せていた。
おそらく昨日の毒草のせいだろう。
解熱や解毒に無意識にかなりの力を使ったに違いない。
多大な回復力は毒草を塗った筈の手の傷まで治したが、体力の消耗は変わっていない。
いや、身体の消耗を速めただけだ。
力を使えば腹が減るのは当然。
例えあまり動かなかったとしてもいずれは来る未来が、少し早まったに過ぎない。
「嫌ですっ!僕はお腹は減ってませんっ」
なのに小松は意地を張る。
「我慢すれば辛いだけだ」
「そんなの、飲むほうが辛いですっ…!」
「っ!」
ココは小松の腕を引きずってダイニングに戻り、テーブルに置かれたままのグラスを小松の目の前に突き付けた。
「飲むんだ!君にはこれが必要だ!」
「必要ないものですっ!」
「別にこれは無理矢理得たものじゃない。今我慢して誰かを襲ってからの方が余程辛いんだっ!」
「…襲いませんっ!」
一瞬、ココの気迫に息を呑んだものの、小松は尚否定する。
「それに襲いたくなったって傍にいるのがココさんなら平気ですっ」
ココなら小松を止められる。
確かにそうかもしれない。
しかしそれは、二人きりの場合のみ。
己に向かってくると分かっている場合だけだ。
------どうして…!どうしてあの時に俺を殺してくれなかった…!?
あの時殺してくれれば、妻は生きていてくれたのに!腹にいる子供を産んで、命を繋いでいけたのに!
あぁ、分かっているさ・・・逆恨みだなんて!
俺が・・・俺が妻を殺したんだ・・・・!!!
聞き分けのない小松に、封じた筈の嫌な記憶が甦る。
これでは前と同じ轍を踏むかもしれない。
「…言っていなかったけれど、昨日君が熱を出しているとき、村長が見舞いに来てたんだ」
「…」
「次に君が寝て目覚めて見る光景は、干からびて動かなくなった村長かもしれない」
腹が減って理性すら失っている時に餌として求めるのは、より早く手軽に得やすい血液だろう。
小松がココを襲うにはあまりにリスクが高すぎる。
二人きりでないならば、ココではない村人を本能的に狙うだろう。
そして村人は一人ではない。
ココ一人で村人全員を守る事など不可能なのだ。
「そんな事っ!」
「それくらい、強力なんだ。理性なんて吹き飛ばしてしまう・・・強烈な血への渇望。数いるモンスターの中でも吸血鬼が最も恐れられる理由だよ」
理性あった者をも狩りたてる吸血衝動。
被害者であった筈のものが加害者になってしまう。
新たな悲劇を生みだすスパイラル。
それこそ最も質の悪い感染症だ。
小松は今にも泣きそうな顔をして息を呑んだ。
ココの言葉にはどこか真実味がある。
会ったら生きてはいられないと言われている吸血鬼に会った事があるのか。
いや、目の前でそんな惨劇にあったかのような口調。
小松は未だ我を失う程の空腹を味わった事はない。
しかしそうなってしまってからでは遅いのだ。
ココの言うことも分かる。
分かるので、突き付けられたそれから目が離せない。
・・・でも嫌なのだ。
料理をしていたついさっきまでは、小松は自分が吸血鬼だと言うことを忘れるくらい普通の人間と同じだった。
今も腹が減らないだけで、今日のように食事をしようと思えば食べられる。
だが、グラスに入れられているから吸血とまでいかずとも、血液を飲むと言う行為を行ってしまえば、決定的に何かが違ってしまう気がするのだ。
既にココからの拘束は解かれてはいるのだが、手はグラスに伸びていかない。
最悪を回避する為の手段。
小松も村人を手に掛けないですむなら、それに越したことはないと思う。
ココは間違っていない。
小松の方が…いや、自分の存在そのものが間違っているのだろう。
「…」
「・・・・」
「・・・・・・・・」
「…はぁ。」
どちらも引かない。喋らない。
そんな空気を壊したのは、ココのため息だった。
ビクリと小松の肩が竦む。
とうとう邪魔になって始末される時が来たのかもしれない。
ただでさえベッドを占領し迷惑をかけていたのに、食事をしないと我儘を言うような化け物を匿う必要など、本来ココにはない。
「…小松くん」
「はいっ…!」
しかしそれで良いのかもしれない。
生きていても害にしかならないと判断されたのであれば。
「ちゃんと考えておいて」
そう言うとココはグラスをテーブルに置いた。
「え?」
ほけっとココの手の動きを追うが、殺すどころか強要するでもなくココは部屋を出ていった。
「…え?」
もう一度ココが出て行った扉とテーブルに置かれたものを交互に見る。
しかし何度見ても扉が再び開く事はなかったし、グラスを置いたままココは居なくなっている。
一瞬、何が起こったか分からなかったが、ココが自分に時間をくれたらしい、という事をしばらくしてようやく理解した。
それは、ココからの信頼の証でもある。
例えば小松がグラスの中身を流して捨てて、飲みましたと嘘をつく可能性を考えていない。
小松が真面目に考えているからだろう。
自覚はないが小松の顔色は悪いらしいから、嘘をついても血色が良くなっていなければ分かるのかもしれないが。
これを用意するのに、どれだけの労力がいっただろう?
吸血鬼でもないものが、吸血以外の方法で、人間の血液を得る。
普通に考えてそれはとても難しい事だ。
人に頼むとしても、そんなおかしな依頼を引き受ける人間もなかなかいないだろうし、居てもきっと足元を見られるだろう。
ココはお金持ちのようなのでそんな心配は無用であるかもしれないが、それでも小松は自分の為に危険を犯したり無駄なお金を使って欲しくはないと思っている。
小松とて分かっている。
生きる為にはそれしかないのだと。
そして、分かっていて尚、手をつけたくないというのが小松の結論だった。
「・・・よし。まずはキッチンを片づけよう」
結論が出てしまえば、むしろ気持ちは楽になる。
キッチンが汚れたままにしておくのは嫌だ。
立つ鳥跡を濁さずとも言うし、何より小松にとって最も身近で好きな場所であるのだ。
ココは小松に言われた買い物に出ていた。
小松に考える時間を与えたものの、あれほどの拒絶反応を見せたのだ。
そう簡単には頷くまい。
おそらく今回は飲まないだろうというのがココの結論だ。
ココが手に入れたものは、村人から抜いた血液ではない。
とある筋から手に入れた血液製剤だ。
一般には知られていないが、吸血鬼ハンターに吸血鬼が殺されずに捕えられた場合、協会を通して吸血鬼のみを集めた療養所に送られる。
そこでは様々な研究もなされており、吸血鬼を人間に戻す方法や、吸血鬼の吸血欲を削ぐ研究もその一つだ。
もしそれが実現すれば、何れは吸血鬼が人間と共存できる方法も出てくるかもしれない。
もしくは吸血鬼に転化しても人間に戻せるなら、感染の拡大防止にもなる。
最終的にはオリジナルの吸血鬼でさえ、人間に出来たらこの世から吸血鬼への恐怖などなくなるだろう。
だが、現実にはまだまだ研究段階で、実現には程遠いのが現状だ。
そう言った目的を持って出来た施設で、捕えられた吸血鬼に与えられる食事が、ココの手に入れたものだった。
研究の初期の成果でもある。
献血で手に入れた血液を精製、凝縮し、カプセル状にしたもの。
それを水に溶かして飲む。
更に改良を重ねられ、今では通常より濃いそれは栄養価も高く、療養所で暮らす吸血鬼達の食事の回数も減る程だという。
吸血鬼の吸血衝動はまだ抑える事は出来ないが、定期的に栄養を摂取していればそうそう自我を失う事もない。
だが療養所と言えば聞こえは良いが、実際には吸血鬼化したものの隔離設備を兼ねた研究施設だ。
与えられた部屋の窓には聖水で精製して作った鉄格子が嵌めてあるし、ドアも教会の刻印入りの厳重な鉄製の扉。
外に出る時は四肢の自由を奪われる。
囚人と扱いはほとんど変わらない。
いや、理性を失ってしまった者は研究と称した人体実験も行われていると言うから、囚人より酷いかもしれない。
吸血鬼が血の欲望に暴走し始めれば人に止める事は出来ないとは言え、明らかに療養所ではなかった。
捕えた吸血鬼を療養所に送る。
それが小松である場合、プラスに働くかどうかと言われれば、明らかにNOだ。
数日経っても、小松の化物じみた変化は血への反応と毒草に対する治癒力のみ。
その治癒力もそもそも口に含んだ量が少なかっただけ、運が良かっただけと取れなくもない。
日光を怖がらず、料理としてニンニクも扱う。
日が沈めば眠り、日のある内に目を覚ます。
力もスピードも人並み。
声が大きい・・・のは元からだろう。
小松は腹は減っていないと言ったが、腹は鳴っていたし顔色は悪い。
料理好きも元からかもしれないが、昨夜から引き続き出されたものに口をつけたりして人間の食事をしようとしている事からも、飢餓感までいかずとも空腹感はある筈だ。
吸血鬼に血を吸われ吸血鬼化している筈なのに、身体的には殆ど変化がない。
研究材料にはもってこいだろう。
そしてそういったレアなケースに喜んで食いつく研究者はあの施設にごまんといる。
むしろ殺されていた方がマシだという目にあうかもしれない。
もし小松を療養所に送る事になったとすれば、ココは十分説明をしてからにしようと思っている。
だがあの顔色を見ていると、吸血衝動が起きるのも遠い未来ではない気がする。
早く何とかしなければいけない事も事実だった。
トリコマ週間は終了いたしました。
全然ココ離れ出来てなかったけどね!
とりあえずパロの続きを書きながら、リクエストに答える為になけなしの知恵を絞ろうかと思います。
目指せ、無駄に色気ムンムンの格好良いココでエロココマ!
一応、名言することで自分を追い込んでみた!
・・・・・努力目標で構わないかな?(弱気)
本日はいつも帰り途で人が並んでいるから気になってたラーメン屋でラーメンを食べてきました!
職場の人に聞くと、評価はパッツンと二分。
そこそこ美味しいけれど、こってりしていたスープは女性にはイマイチなのかも・・・?
焼き豚とねぎが美味しかったです!
魚介スープってかカツオの主張が強かったなぁ。
しばらくして小松から声がかかった。
「ココさぁーん!ごはん、出来ましたよ!」
ふと顔を上げると、四半刻が過ぎている。
考え事をしていると、時が過ぎるのが早い。
「今行くよ」
ココは手にした容器を懐に仕舞って立ち上がった。
「やぁ、美味しそうな匂いだね」
部屋に入る前から良い匂いがしているとは思ったが、ダイニングに入った途端、香りは更に強くなった。
小松の様子を見ても、特に困った事にはならなかったようだ。
「ありがとうございます。お口に合うと良いんですけど・・・」
用意されていたのは、ストロガノフだった。
あり合わせの野菜と食いでがある肉を使った結果だろう。
そして少ししつこいかもしれないと思ったのか、スープはあっさりコンソメで作られていた。
スープは灰汁が浮いている事もなく透き通っていて、中に入った野菜も選んでいるのか、発色のバランスが良い。
ストロガノフは肉のサイズに合わせたのか、ゴロゴロと大きめの野菜を使っている。
時計を確認する。
小松が料理を始めてから声がかけられるまでの間は半刻にも満たない。
そこから考えられるココの出した結論は------硬い。
当然だった。
いや、もちろん野菜はそれなりに火が通っているだろう。
実際コンソメスープは美味しそうに出来あがっている。
細かい野菜は短時間でも火が通せるのでスープの方は問題ないだろう。
煮込み始めが早ければ、ストロガノフの方の野菜だって煮えているかもしれない。
もし多少生煮えであったとしても、シャキシャキとした食感とともに食べられるレベルではあるだろう。
問題は肉の方だ。
一週間近く干してあった乾燥した肉だ。
その肉の処理をして、たった半刻で煮込み料理が出来る筈がない。
つまりは干し肉をそのまま切って煮込んだのだろう、と考えられるが、硬い肉をこのような大きなサイズに切っては噛みちぎるのも一苦労ではないかと思われる。
包丁を入れた時に分かりそうなものではあるが・・・流石に子供にそこまで求めるのは酷かもしれない。
初めて使う肉だし、まぁ当然の結果ではある。
全て任せたのは自分なのだし、次からは教えれば良い話だろう。
料理は出来るようなので、最初にどうして教えておかなかったか、と後悔こそ多少あれ、せっかくなので食べてみようと決める。
思った事はおくびにも出さず、ココは用意された席についた。
「ところで、小松くんの分は?」
同じように席についた小松に尋ねる。
ストロガノフとスープが置かれたのはココの前だけで、小松の前には白い皿が一枚、置かれているだけだ。
「あ、僕はパンを頂きますので・・・それに、作る時に味見しちゃったし」
テーブルの真ん中には今朝ココが焼いたパンがある。
小松はそれを神の肉として扱うよりも少し厚手に切り、トースターに入れた。
バターとジャムを用意して、小松の分はそれで終わりのようだ。
ただ、他人が作った料理に興味があっただけかもしれない。
ココとの話でパンを食べる事にはしたものの、やはり腹自体は空いていないのか。
「そう・・・」
人間とほとんど変わらない小松の、非人間的な部分を垣間見て少し残念な気分になる。
ちゃんと分かっていながら、今更何を期待していたのやら。
「僕も食べますから、ココさんもどうぞ!」
笑顔の下には、緊張感が見える。
これ以上自分に気を使わせたくはないので、ココは小松の作ってくれた料理に手を付けた。
軽くトーストしたパンを一口大にちぎって食べる。
バターやジャムを出したのはココの為だったらしい。
小松は何もつけずに味わっていた。
「ん!美味しいです!こんなに美味しいパンを最初に口にするのがボクだなんて、何だか村の皆に悪いですね」
例えお金を払ってでもココの手作りのパンを食べたかった女性も少なくないに違いない。
来週からはココのパンが味わえるとは言え、一足先に頂く事になった小松は、皆の事を思うと少し気が引ける。
しかし、強いし容姿端麗、多少毒舌とは言え面倒見が良く結局は優しくて、家事全般もお手の物。
完璧すぎる程完璧な神父がモテない訳はない。
改めてそう思う。
食事の時ですら、ココは見ているものがうっとりしそうな程上品に食事を・・・
「・・・あれ?ココさん・・・?」
ココはスプーンを持ったまま絶句していた。
「ココさーん?」
固まったまま動かないココの視界に入るような位置でブンブンと手を振り回す。
「あ・・・」
ふと我に返り、顔を上げると、不思議そうな顔をした小松と目が合った。
「何か苦手な野菜が入ってました?」
心配そうに覗きこまれる。
一人で食事をするのに、そもそも自分の苦手なものを買い求めたりはしないだろう。
「いや…」
言葉少なに答え、ココは手元に目線を落とす。
美味しそうな匂いだね、とは確かに言った。
そして見た目も美しいスープではあった。
だが、この味まではココの予想外だった。
ただのコンソメスープ。
その筈だったのに。
あっさりとした中に凝縮される、あまりに深い味わい。
おそらく出汁に工夫が加えてある。
それが何かまでは分からなかったが。
ココは言葉少なにもう一品にも手を付けた。
野菜にスプーンを立てると、ホロっ・・・と崩れる。
サワークリームの利いたソースと合わせて口に運ぶと、柔らかく煮込まれた野菜と適度に効いた酸味が口の中に広がる。
しかし最もココが驚いいたのは、やはり肉だ。
大ぶりなそれを噛むと、じゅわっと肉汁が口のなかに溢れた。
小松が使ったのは、保存用にと取っておいた硬い干し肉ではなかったか。
確かに歯ごたえはある。
しかし決して干し肉のそれではない。
あれ?バラ肉を買っていたっけ?
そんな疑問すら思い浮かんだ。
しかし確かにココが味わっているのは、倍ソンの肉だ。
少し癖のあるそれを、見事に調理している。
柔らかく、噛み締める度に味が染みだし、飲み込むまで決して飽きない。
いや、むしろもっと食べたくなる。
初めて扱う肉?
ものの四半刻で作った料理?
嘘だろう?
「・・・あり得ないっ!!」
「ご、ごめんなさいっ・・・!」
厳しい顔で言い放つココに、小松は思わず謝った。
何かまずかっただろうか?
いや、そもそも味が不味かったのか。
調理の仕方によって、もっと美味しく出来たかもしれない。
せっかくの肉を生かしきれなくて怒ってしまったのか。
不安のあまりココを伺うが、肝心のココは何も答えず、次々と料理を口に運んでいるだけだ。
ココの笑顔が見たくて作った料理は、残念ながらココを笑顔になど出来なかったようだ。
自分の腕の未熟さに泣きたくなってしまう。
普段ではお目にかかれない肉に興奮して、自分だけが楽しく作ってしまった。
自分だけが楽しくても、食べてくれる肝心のココを笑顔に出来なければ意味がないのに。
作り手として、一番大事な事を忘れてはいけなかったのに!
難しい顔をしながらも料理を口に運んでくれるココに、逆に申し訳なさが先立ってしまう。
本当は不味かったらもう食べないで下さいと言うべきなのだろうが、食材を無駄にしない為か、無言で食事を続けるココになんと声をかければ良いのか分からず戸惑う。
「ふぅっ・・・ごちそうさま」
オロオロと落ち着かない気持ちで見守っていた小松を尻目に、結局ココは全てを平らげてしまった。
「お粗末さまでした・・・」
小松はもう居たたまれない気持ちでいっぱいだ。
料理をしていた時が嘘のようにしょぼんとしてしまう。
それでも厚かましくも聞いてしまったのは、条件反射のようなものだ。
「あの、どうだったでしょう・・・?」
一応食べてくれたのだから、食べるに値しないというまで最悪な状態ではなかったと思いたい。
けれど、”あり得ない”との発言を受けたからには、かなりの苦言も覚悟しておかないと。
もう二度と作らせてもらえないかもしれないのに、こんな事を聞くのはおかしい。
ココのアドバイスを受けて、もう一度やり直させてもらえないだろうか、なんておこがましいことこの上ない。
それでも小松は料理が好きで、より美味しく作りたいと思うのはもう本能のようなものなのだ。
言ってしまってから気付いて、小松は緊張でじっとりと手のひらに汗を滲ませた。
もう緊張で手はぶるぶると震えてしまっている。
「美味しかったよ」
さらりと伝えたココに、小松は泣きそうに顔を歪めた。
「しょ、正直に言って下さって構いませんからっ!」
「??」
正直に伝えたつもりなのだが、伝わらなかったのだろうか?
ココは出された料理を味わうのに懸命になるあまり、小松を見ていなかった。
ミサの時より・・・下手をすると隣室にいた時以上に小松を認識出来ていなかったかもしれない。
それくらい目の前の料理を味わうのに夢中になってしまっていた。
「・・・まだ余ってるのはあるかな?」
「・・・ええと、スープならまだ少し・・・」
問われるまま、キッチンを振り返りながら言う。
「そう。なら、それも貰っても構わないかな?」
「か、構いませんけど、ココさん・・・」
不安でいっぱいの目でココを見つめる。
「バランスは悪いけど、本当に美味しかったからおかわりが欲しいんだ。駄目かい?」
「だ、大丈夫ですっ!」
小松はココが平らげた皿を持つと、慌ててキッチンに戻った。
どうやらスープは及第点くらいは貰えるようだ。
ということは駄目だったのはストロガノフの方か。
バランス・・・スパイスの配合だろうか?
それともやはり肉の方か・・・
「へぇ、キッチンも綺麗に使ってくれたようだね」
「うひゃっ!」
思わず皿を取り落としそうになるくらい飛び上がる。
考え込む小松は、すぐ傍にココが来たのにも気づいてなかった。
「す、すみません!今よそいますのでっ!」
「あー・・・本当にもうないんだ・・・」
小松がよそうスープの鍋とは違う、隣の鍋を覗きこんで、ココはがっかりしたように肩を落とす。
ぽかん、と小松はそんなココを見るしかなかった。
「なんだかココさん、食いしんぼうみたいです・・・」
まさか、そんな事の為に追いかけてきたのだろうか?
「だって美味しかったんだもの。もっと食べたいと思うのは道理だろう?」
さらりと何でもない事のようにココは言い切った。
「・・・本当に美味しかったんですか?」
にわかには信じられず、気を使っているのではないかと疑ってしまう。
「もちろん。けど、渡した肉はもう少しあったと思ったんだけどなぁ・・・」
「あ・・・貴重な食材ですし、全部使うのはもったいないと思って・・・」
おずおずと残った調理してない肉をココに渡す。
渡された肉は減っているが、その手が伝える感触はやはり硬い。
小松は、最初から貴重な肉を全て使い切ってやろうなんて思ってなかったのだ。
「そんなの、まだあるから構わないのに」
あっさりとそう言い放ち、むしろどうして全ての食材を使い切らなかったのか、とでも言いたそうだ。
「あの・・・何度も聞くようですけど、本当に美味しかったんですか?」
「何度も言うようだけど、本当に美味しかったよ」
でも、笑顔じゃなかった。
それに・・・
「バランスが悪いって・・・」
「あぁ、あれ。あれは僕のパンに合わせて君が料理を作ってくれたと思ったから」
「はい、そのつもりでしたけど」
「ものすごく裏切られたけどね」
「すっすみませんっ!」
「おかげで僕は自分の作ったパンなんかに手をつける気になれなかったんだ」
そう言えば、ココは小松の料理は食べてくれたが、パンには一切手をつけていない。
作り過ぎたパンを腐らせない為に小松も食事に誘ってくれた筈なのに、小松しかパンを食べてなければあまり意味がない。
小松は美味しいと言ってくれたが、ココの作ったパンなど小松の料理に比べれば児戯に等しい。
儀礼的に使う、何の変哲もないパンだ。
パンに合う料理として作ったものかもしれないが、明らかにバランスが取れていない。
味のレベルが違いすぎる。
だが、パンも小松が作ったら?
多めに作っていたあの量のパンであったとしても、残ったソースをしみこませて、全て平らげられるだろう。
「そっかぁ・・・美味しかったんだ・・・・」
さっきまで凄く不安だった。
それが覆され、じわじわと小松の心に喜びが広がっていく。
「うん。こんなに美味しいと思ったのは久しぶりだ。ありがとう」
ぼっ!
ココが答えた瞬間、小松は血液が沸騰したように一気に頬を染めた。
「?」
村人としてのくくりで言えば、ココにはひどく有り触れた反応だったので、特に頓着しない。
だが、小松は数日ぶりに見たのだ。
ココの笑顔を。
初めて食事を共にした時の事を思い出させる。
あの時、ココはひどく優しく笑ってくれていた。
彼が笑ってくれると、自分も幸せで。
この時間がずっと続くと良いなぁ、と心の底からそう思っていた。
物腰柔らかく優しいココだが、小松が見る限り、ココは決して今のようには笑っていなかった。
小松と居る時などは特に笑顔など見せない。
まぁ、自分たちの関係からすれば、当然の事かもしれないが。
優しい言葉をかけてくれる事や、自分を心配して諌める言葉をかけてくれる事もある。
その時のココの口元は弧を描く事もある。
時には不安な自分を安心させる為に笑顔を作ることも。
だがずっと傍で見ていて分かったのだ。
小松にはココを見る以外、する事などなかったから。
そして何より、最初に笑っていたココを知っているから。
このところのココはずっと、笑顔を”作って”いた。
ココが小松に接するのは、神父として必要だから。
ココのそれは、司祭としての顔なのだと。
だから必要なものだと思って、何も言わなかった。
司祭としての顔も必要。
村人がココ個人ではなく、司祭としてのココを必要としていれば、自分のような者がずっと傍にいれば、笑う事も出来ない。
そんなのは当然だと思っていた。
だが、いつか本当に心から笑ってくれると良い。
常々そう感じていた。
それには自分がいなくなる事が一番なのだろうけど、彼は優しいので自分から捨てる事もなさそうだ。
そして小松はまだ自ら命を絶つような勇気は持てなかった。
もちろん、自分が本能のままに誰かを襲うなんて事をやらかした日には、ココの手を借りず死ぬつもりではあるのだが。
まさか、こんな風になってしまった自分にまた笑いかけてくれる事があるなんて!
「こちらこそ食べてもらってありがとうございました」
そう答えた小松も、数日ぶりに心からの笑顔を見せていた。
すっかり食べつくしてしまった後、小松は洗い物もさせてもらった。
ただ寝ているだけじゃなく、自分がやれることがある。
身体を動かして良いという事がこんなに嬉しいと思う時がくるとは思ってないかった。
しかし、小松にはそれ以上嬉しい事がある。
「そっかぁ…美味しかったかぁ…」
言われた言葉を思い出してはへらへらと笑う。
何より小松の頬を緩めさせるのは、美味しいと言ってくれた時のココの笑顔だ。
ココが自分に笑ってくれた。
それだけの事が酷く嬉しい。
「…かい?」
「あっはいっ!」
思い出し笑いを繰り返すあまり、ココが話し掛けてくるのに気付かなかった。
「じゃあ楽しみにしてるね」
ここ数日の硬い表情はなんだったのかと言うくらい笑顔の大安売りだ。
ただでさえ造形の整ったココがそんな事をすると、正視できなくなってしまう。
…とそんな事を思っている場合ではない。
話しを聞いてなかったのに、返事をしたことになっている。
いや。
でもこの流れから言えば、きっと言われた言葉は小松の予想で間違いないはず。
何しろ小松が出来ることなど、その一つしかないのだから。
「明日はココさんのパンでサンドウィッチを作って良いですか?」
「勿論。お願いするよ」
「はいっ!」
予想どおりとは言え、嬉しい返答に小松は明日が楽しみで仕方ない。
今夜はちゃんと眠れるだろうか、と少し不安になったくらいだ。
その晩、ココは初めて小松を縛らなかった。
仕事を持ち帰ったくせにまだ全然手をつけてません。
明日の朝イチで提出なのに・・・・・
パソコンつけると遊びたくなるんだよぅ・・・・
以下はココマパロ14です。
毎日コツコツ、携帯で一日2000キロバイト書くのが目標です。
好きなシーンから書くから、後でつなぎ合わせるのが大変・・・
「それにしても、せっかく焼いたパンが無駄になっちゃったな」
不愉快な話はこれで終わりだ、とばかりにココが呟く。
その一言に小松は食いついた。
「あ…神の肉ですね!もしかしてココさんが焼いたんですか…?!」
教会のミサでは、祝福を受ける時に神の血肉を受け取る。
一般には市販のパンと葡萄酒なのだが、せっかく焼いたと言うのなら、ココがパンを作ったのだろう。
「そうだよ。けれど中止になっちゃったから…」
ぐぅぅ~
ココの言葉をさえぎるように音が鳴る。
ココの立てた音でなければ当然…
小松を見ると真っ赤になってお腹を押さえていた。
「…お腹、空いたの?」
「あっ、いえっ…空いたと言うか、食べ物の話をしてた条件反射と言うか…えと…」
注意深く様子を見ていたが、餓えると言う状態ではなさそうだ。
小松の言う通り条件反射なのかもしれない。
しかし人間以上の回復力を見せた小松だ。
体力を消耗して腹を空かせた可能性だってある。
「…食べるかい?」
「良いんですかっ?!」
急に目をキラキラと輝かせた小松に押されつつもココは頷いた。
うわぁ、楽しみだなぁ!などとウキウキしている。
ただココの作ったパンを食べてみるかと聞いただけなのに。
そう言えばここ数日随分と大人しかったが、最初に会った時は確かもっと良く笑ったし、騒がしいくらい喋っていたような気がする。
気を張っていたのは自分ばかりではないという事に、ココは今更気が付いた。
子供がそこまで気遣うのは、ココの本意ではない。
「じゃあ食事にしよう」
ココは吸血鬼になった小松を初めて食事に誘った。
沢山作りすぎたパンはココ一人では腐らせてしまう。
栄養にはならずとも、楽しく食べてくれる相手がいるなら、そちらの方が良いだろう。
「じゃあ準備をしてくるから…」
待っていてと言い掛けて、思い直す。
病み上がりにどうかとも思ったが、小松ならこちらの方が喜ぶかもしれない。
「準備をするから、手伝ってくれるかい?」
「っ…はいっ!!」
ほら、思った通り。
一瞬虚をつかれたような顔をした小松は、言われた内容を把握するなり破顔した。
勢い良くベッドから降りようとするあまり、シーツに足を引っ掛けて転げ落ちそうになっていたくらいだ。
ココが支えなければ、頭から落ちていたかもしれない。
「ココさん、ココさん、何を作りますか?!ココさんの好きなものって何ですか?」
お礼もそこそこに興奮気味に尋ねる。
自分でレシピを書いていたくらいだ。
作りたいものがあるのかもしれない。
「もう夜遅いから買い物にも行けないし、あるもので作れば良いんじゃないかな。小松くんは何を作りたいんだい?」
何を食べたいのか、とは聞かなかった。
本当に食欲があるかどうか分からなかったからだ。
小松はキッチンに立つとざっと周囲を見回した。
「んー…パンがあるから、あっさりコンソメスープかトマトをたっぷり使ったミネストローネのスープを作ろうかな…」
どうやら野菜中心のスープを考えているようだ。
「それだけだと寂しいな…何か…」
キョロキョロと何かを探していたようだが、やがて目当てを見つけたようだ。
視線が一点に集中する。
「ココさんっ!あれっ」
「使いたいなら使って良いよ?」
小松の態度があまりに分かりやすい為、聞かれる前に答えた。
ココは基本菜食が多い。
規律としては別に決められた日以外には肉食をしても構わないので、純粋に好みの問題だ。
あまり肉類を多く食べない為、大抵は保存が効くようにしてしまう。
スープとパンだけでは寂しいとメインになりそうなものが欲しかったのだろう。
小松の目線の先にある干し肉を手にとって渡せば、小松の目は一層輝きを増した。
「本当に良いんですか…?!」
干し肉を受け取る小松の手はブルブルと震えている。
「構わないよ。晩ご飯を作ってくれるんだろう?」
どうせココの胃に入るものだ。
遠慮をする必要などないと促す。
「うわー!ありがとうございます!ボク、倍ソンを調理するのなんて初めてですっ!」
感激しているのか涙まで浮かんでいる。
「え、そ、そう?」
まずい事をしたか?とココは戸惑った。
特徴ある蹄がついているとは言え、まさか四肢の一部分だけで食材を見抜かれるとは思っていなかった。
小松の口調は質問ではなく断定的だ。
「そうですよっ!だって捕獲レベル5ですよ、5!!
倍ソンってただでさえハンターが10人以上で協力して捕獲するレベルの猛獣なのに、怒らせたら倍増し倍増しで更に強くなっちゃうんですよ!?
そんな稀少食材、行商人が来ても、ボクのお小遣いじゃとても買えませんもんっ!」
「詳しいんだね、小松くん」
「数年前に村の東の森に巣を作っているのが分かってから、東の森は立ち入り禁止になったんで調べた事があるんです!
だってそうでしょう?
村ではそんな沢山ハンターを雇う財力はないですし、かと言って村に入ってくることはないから、怒らせないようにしておけば問題になる事はないって」
なるほど、財力のない村ではそういった問題は放っておかれるのかもしれない。
事なかれ主義かもしれないが、村や旅人に被害が出てないならそれで構わないのだろう。
実際、猛獣被害でハンターを雇うのに政府の補助が出るのは、村にある程度以上の被害がある場合に限られている。
東の森に続く村境の結界だけがやけに強力なのも、このせいか・・・?
「はぁ~・・・ココさんってお金持ちなんですねぇ・・・しかも気前がいい・・・」
感心したように小松が呟いた。
「はは・・・」
まさか自分で狩りました、とは言えずココは言葉を濁した。
しかも怒らせれば怒らせる程捕獲も難しくなるが、その方が肉が美味になるので、わざと限界近くまでレベルを上げさせただなんて。
・・・だって、普通に狩った肉は硬くてあまり美味くないのだ。
牛や豚を食した方が美味いくらいだから、被害がなければ捨て置かれるのも無理はない。
ココも自分が食べるのであれば、例え保存食にするとしても少しは美味しく頂きたい。
だが確かに明らかに神父が狩るような猛獣ではない。
というか普通神父は猛獣を狩らない。
この村に来る直前、偶然遭遇したのでちょうど良いと狩って、食べきれない分は保存用にしておいたものだ。
教会は迷える子羊に手を差し伸べるものであるから、保存のきく食糧はあっても損はない。
そんな気軽な気持ちであったが、一般的には不審な点が多すぎて、ココは少し冷や汗を垂らす事になった。
知ったのがそういう細かい事に気づかない子供であって助かる。
自分のような捻くれた大人なら、そんな素直に聞き流せてはいまい。
「・・・ん?東の森は立ち入り禁止?」
ギクリ、と小松は肩を強張らせた。
ココは知らなかったから、普通に東の森から来て今も出入りしているのだが。
そして結果的には猛獣退治をして村の助けにもなった事にもなるのだが。
「小松、くん?」
「あはは・・・」
へらり、と愛想笑い。
そんな分かりやすい誤魔化しを、気軽に流してしまえるココではない。
「どういう事かな?」
出会った時はココの事を心配するあまり禁を犯したのかもしれないが、明らかに先ほどの口調に初犯の緊張感がなかった。
「えと、えと。その、東の森って、キノコとか木の実とか食材が豊富なんですよ!」
それはココも知っている。
小松に毎朝塗る薬草もそこで採取しているくらいだ。
だが、確かに東の森で村人に会う事はなかった。
村の最東端に教会が位置するという事もあるだろうが、あれだけ食材が豊富なら、誰かしら取りに行く者がいてもおかしくない筈なのに。
「その、僕、結構運が良いみたいで。今まで会った事ないんですよねぇ~。
あっ!もちろんそんな遠くには行ってないですし!ちょっとくらいなら良いかなって・・・」
えへ。
小首を傾げる。
「・・・全く。それでもっとタチの悪いモンスターに襲われてたら世話はないよね」
倍ソンには会わなかったが吸血鬼には会うなんて、とんだ災難だ。
「・・・す、すみません・・・」
今現在迷惑をかけていると自覚のある小松にはキツい言葉だろう。
まぁ今更どうなる訳でもないし、ココなどは知らなかったとは言え毎日禁を破っていた事になるので人の事は言えない。
ココはそれを聞いた後でも止める気などないのだから。
そして今現在、倍ソンはいないのである意味禁など意味はないのだが。
だがそれは村人は知らない方が良いだろう。
吸血鬼が出た森と認識するより、倍ソンが出るので危険と認識している方が精神的に楽だ。
「反省しているなら、良いよ。さぁ、晩御飯を作ろうか」
せっかく小松も少し元気になったのだ。
適度は反省は必要だが、あまり苛めるのも可哀想だ、とココは話を切り上げた。
「あっ、あのっ!」
「うん?」
「も、もし良かったら、僕一人に作らせてくれませんか・・・!?」
「君一人で?」
「はいっ・・・」
小松は伺うようにココを見た。
「キッチンにある食材で作りますから変なものは入れないですし、使っちゃいけいないものは言ってもらえれば使ったりしませんっ!」
「いや、別に何を使ってもらっても構わないんだけど・・・」
別に小松が何か料理に細工したりするとは思っているワケではないのだが、調理した事もない肉を扱ったりするのは一人では難しいと思うのだが…
心配が顔に出たのかもしれない。
「ボク、美味しく出来るように頑張りますっ!ココさんの口に合うかどうかは分かりませんが、司祭さまのご飯もよく一人で作ってましたしっ!
キッチンにある道具や調味料もだいたい分かりますしっ!使って良いって言って頂いたこれも無駄にはしませんっ!」
懸命に言い募る小松にほだされた、と言うのが正しいかもしれない。
どうしてそこまで必死になっているのかココには理解出来なかったが、今までそんな風に小松に主張された事がなかったので、好きにやらせてみようと決める。
「・・・分かった、じゃあお願いしようかな」
パッと小松の表情が華やいだ。
「ただし、何かあったらすぐ報告にくる事。いいね?」
そう言い置くとココはキッチンを出た。
隣の部屋にいても小松の気配は追える。
小松の声は大きいから、隣の部屋くらいなら声も聞こえるだろう。
ここ最近手持ちぶさたでやる事がなかったというのもあるかもしれない。
「よーし、やるぞー!」と言う気合いの入った声が聞こえ、クスリと笑みを溢した。
すぐ対応出来る範囲ではあるが、目を離しても聞こえてくるのは鼻歌ばかり。
今は余程料理するのが楽しいのだろう。
悪巧みするどころか悲しむ様子もない。
こちらが意識せずともキッチンでここにいると存在感を撒き散らしているくらいだ。
今日のミサのように騒がしくされるのは好きではないが、隣の部屋から誰かの楽しそうな歌が聞こえてくる。
そんな騒がしさは悪くない。
ちゃんと火を扱えるのだろうか?
包丁で指を切ったりしていないだろうか?
ただ待っていると心配ばかりしてしまうが、小松は1人でやりたそうだったし、あまり構いすぎるのも嫌かもしれない。
楽しそうな気配をさせている限り、怪我などの心配はないだろう。
もう少し目を離しても大丈夫だろうか。
例えば。
まだ様子見の時期だから本当に例えばの話ではあるが、今のように小松が変わらず人間らしくいられるのであれば、村での生活も可能ではないだろうか。
数日経ってなにか変化があるどころか、まんま普通の子供だ。
夜も夜で行動が活発になるような事もなく、多少寝つきが悪い事もあるが、一度寝てしまえば静かなものだ。
熱が早く引いたのが変化と言えば変化。
あと一つ。
食事をずっとしていない。
人間であれば既に動けなくなっていても不思議はないくらいの日数は経っている。
吸血鬼になっていても一生飲まず食わずという訳にはいかない。
燃費の良し悪しはあるが、冬眠する間食べない動物もその前後はいつも以上に食べる。
小松はこの数日食事していない。
このまま、という訳にはいかないのだ。
テーブルの上に置いたものを見る。
今日、調達できたものだ。
パンより薬草より効果的だろうそれ。
その時がくればその時と思ってはいたが、使える時には使っておくべきかもしれない。
わりと早く使う時がくるだろう、とココは思った。